明編 罠

えいがもし、マンティアンとして自然の中で生きていくのが辛いと感じるなら、ここに来てくれて構わない。この<群れ>の仲間として迎え入れたいとも思う。


本人が望むならな。


望んでないのなら、そりゃもう任せるしかない。


と自分に言い聞かせ、今日もめい達を見守る。


見守りながらも、一歩引いた形を保つことを心掛ける。


めいの姿にじんの面影を見ながらも、めいめいだからな。


じんじゃない。


じん達のことを思い出しても、今も寂しくは感じるものの、それに囚われてしまうようなことはもうない。彼女達を忘れるなんてことはできないにしても、もうすっかり俺の中で確実な形で定着してるんだ。彼女達が作ってくれた今の俺を、大切にしたい。


それでも毎日の墓参りは欠かさないぞ。


めそめそ泣いたりはしないものの、これはもうそれ自体が、習慣だからな。








新暦〇〇二八年九月十二日。




めいは、今日も密林の中に溶け込んで、狩りをする。


木の幹に張り付いて一体化し、気配を消す。


すると、視界に入っていても気付けない。俺が見てる画面では画像解析された状態で表示されるから分かるだけだ。


たぶん、肉眼で見たらまったく気付かないだろう。


めいは、その状態で一時間でも二時間でも微動だにしないこともある。その間、小便は垂れ流しだ。大きい方は、からからに乾いた球状のがころころと排出されるんだが、それはある程度溜めておいてから、自分の巣とは離れたところで一度に出すらしい。その辺りの臭いで拠点を特定されないようするための習性なんだろう。


そんなめいのすぐ前を、一羽の鳥が横切ろうとした。ここでは当たり前に見られる、ハトに似た中型の鳥だ。


すると一瞬で、その鳥の姿が消えた。と思うと、めいの右の鎌にがっちりと捕らえられていた。バタバタと羽ばたいて抵抗するものの、当然、逃がしはしない。そうして生きたまま、バリバリと貪り始めた。


残酷に見えてもこれがマンティアンというものだ。


そして完全に動かなくなると、まだ食べられるところが残っていても興味が失せたように放り出してしまう。


で、マンティアンの食べ残しを、他の小動物や鳥が頂くというわけだ。


おこぼれにあずかるために、食事中のマンティアンの周囲には様々な動物が集まってくる。ただし、命懸けであるが。なにしろ、そのまま次の獲物としてロックオンされることもあるわけで。


この時も、めいは、彼女が捨てた食べ残しに群がろうとしたネズミのような小動物を捕らえ、やはりそのまま食べ始めた。


ある意味、<罠>にもなっているのかもしれないな。


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