誉編 情報管理

新暦〇〇二八年八月二十日。




フィクションでならここは盛り上げるために<至近距離での殴り合い>を選択することになる流れなんだろうが、俺は、自分と家族の命と、そしてそれを守るための大切な<道具>であるエレクシア達を、エンターテイメントに供して危険に曝すつもりは毛頭ない。


だから傍目には面白くなかろうがつまらなかろうが、一番安全で確実な方法を選ぶ。


それも俺の役目だ。


とは言え、具体的な作戦を立てるにはまだ早いか。


しかしいくつかのケースを想定し、まずはシミュレーションを行う。


がくは現在、西の草原の辺りを不規則に移動しながらも、徐々に俺達がいる密林の方へと近付いてきている状態だった。


遠ざかって欲しいという俺の願いは届きそうにない。そんな訳で、密林の外れで迎撃するというのを大まかな方針として決め、それを基にしたいくつかの作戦を考えた。


と言っても、その手の軍事作戦については俺は素人なので、基本的にはエレクシアとイレーネが立案したそれを追認するしかできない感じだが。


「大まかにかいつまんで言えば、密林の外れから三キロほどまで近付いた時に、密林から<電磁加速質量砲レールガン>で狙撃するという理解でいいんだな?」


確認のために問い掛ける俺に、エレクシアは、


「はい。概要としてはそのようになります。最終的な作戦については、目標がどのルートで接近してくるかによって変わりますが、いずれにせよ、<遠距離からの狙撃>という形は変わりません」


と淡々と説明してくれる。


それを、俺とひかりあかりが聞く。


シモーヌは、作戦会議には参加しない。というのも、何らかの形で不定形生物とそれ由来の動物との間で情報のやり取りが行われている可能性が否定しきれない以上、意図せずこちらの情報が筒抜けになってしまう危険性を避ける必要があったからだ。


「はい、事情は分かります。私もみんなを危険に曝したくないですから」


そう言って彼女は、がくの件が片付くまで、作戦会議には参加しないことを承諾してくれた、


申し訳ないのと同時に、彼女の気遣いが胸に沁みる。


だからそういう意味でも、さっさと終わらせたい。彼女を一人にしておきたくない。


すると、そっちの願いについては聞き入れられたのか、がくは順調に?こちらへ向かって近付いていた。


「早ければ明日にでも作戦区域に到達する見込みです。いかがいたしますか?」


エレクシアの問い掛けに、


「もちろん、行くさ。準備しよう」


と応え、俺はローバーに荷物を積み込み始めた。がくを出迎える為に今夜は密林の外れ近くでキャンプだ。俺が行かないと、エレクシアも動けないからな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る