誉編 出発

「お父さん、気を付けてね」


少しふっくらとした印象になったひかりがそう声を掛けてきてくれた。


「ああ、もちろん、気を付けるよ、ひかりの子の顔も見なきゃいけないし」


そうは応えたものの、実際に危険な任務をこなすことになるのはエレクシアであって、俺は十分に安全な距離を取った後方でローバーの中で待機してるだけだからな。


正直、危険なことは何もない。


だから心配そうに見ているあかりにも、


「さっさと片付けて帰ってくるよ」


と笑い掛けさせてもらった。


その上で、


「イレーネ、セシリア、留守を頼む」


ひかりあかりに寄り添っていたイレーネとセシリアに改めて指示を出した。


「承知いたしました」


淡々と応えるイレーネに頼もしさを感じつつ、敢えて自宅から出てこないシモーヌにも、


『いってきます』


と心の中で挨拶をする。


最後に、ひかりの後ろであまりよく分かってない表情で俺を見てたじゅんにも真っ直ぐに視線を向けながら言った。


ひかりのことを頼んだぞ」


するとさすがに何かを察したのか、


「うん…!」


と大きく頷いてくれる。


その間にも、エレクシアは<電磁加速質量砲レールガン>をローバーのルーフに固定し、そして念の為の支援用にと急遽用意した、ドーベルマンDK-a拾号機と拾壱号機をローバーの荷台へと搬入していた。


さて、いよいよだな。


やはり普段と違うことを察してか、しんも自分の部屋から顔を出して様子を窺っている。屋根の上にはあらたの姿もあった。


ほむらさいは食事に出ていていない。


普段と変わらずにいてくれるならそれでいいので、気にしない。


庭にはレッド、ブルー、イエローの姿もあり、彼女達の子供らもいつも通りに戯れていた。


そうだ。俺は、この光景を守りたいから行くんだ。


「準備が終わりました」


エレクシアが告げると、


「分かった。じゃあ、行ってくるよ」


俺は軽く手を振りながらエレクシアと共にローバーに乗り込む。


長くようの巣があったことで使うことがなかったもののメンテナンスはしっかりと行われていて万全な状態の俺のローバーに乗り込み、出発した。


こいつに比べると旧式で、フライングカーペット機構(ブランゲッタ)を搭載してないコーネリアス号のローバーとはまったく異なり、するすると滑るように密林へと侵入していくローバーの中で、俺は腕を組み正面を見据えていた。


何事も問題なくスムーズにいけばただの<遊興としての狩り>に等しい気軽さで事を終えられるだろう。


だから正直、俺は妙に冷めた気分を味わっていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る