誉編 昴

新暦〇〇二七年九月十四日。




ここでは本当に命が濃密だ。


<命より大切なもの>など存在しないし、存在しえない。


『親は自分の命に代えても子を守る』という宗教じみた神話も通用しない。自分達が生きる為の子殺しさえ日常茶飯事だ。


生き延びた者が勝ちであり、死ねばそれは負けなのだ。


まあそれで言えば、生き物は皆、いつかは負けると決まってるようなものだけどな。


で、ひいらぎしずかを喪ったほまれの群れでも、また新しい命が誕生していた。


今度は普通にパパニアンの子として生まれ、母親にしっかりと育ててもらえてるようだ。


一安心だな。


その一方で、他の群れから新しく加わったパパニアンもいる。


すばると俺が名付けたやつは、そうした雄の一人だった。


すばるはとにかく挑戦的で挑発的で、とどろき以上にクセの強いパパニアンという印象だった。


なにしろ、突然現れたと思ったらとどろきに食って掛かって、激しいケンカになったのである。


と言っても、さすがに体格的にはとどろきの方が二回りほど大きく、勝負にはならなかったが。


しかしそれでもすばるは、屈服した様子を見せなかった。押さえ付けられてさえとどろきに対して牙を剥き、隙あらば食らいつこうとするかのように睨み付けている。


本来ならさすがにここまで凶暴な奴だと手に余るからということで追い返されたりするんだが、ほまれすばるのことが気に入ったのか、追い返そうとはしなかった。


するとすばるは目下の敵として認定したのかとどろきに毎日勝負を挑んだ。


その姿は、ほまれに勝負を挑んでいるとどろきとそっくり同じだった。


が、とどろきにしてみると、自分がほまれに挑もうとしてもすばるに絡まれて思うに任せないようだ。


「がーっ!!」


「ぐぃーっ!!」


今日もほまれに挑もうとして先にすばるに絡まれ、とどろきは苛立った様子ですばるを退けた。


かなり使いこなせるようになってきている例の<技>で、向こう見ずで無鉄砲なすばるの突進を逸らし、木の枝へと叩きつける。


そんな様子を、メイフェアが笑顔で見てた。さんざんほまれの手を煩わせていたとどろきすばるに煩わされているのが面白いらしい。


「はあ…やれやれ……」


俺はメイフェアに少し呆れながらも、


「まあ、これまで通り、命に係わるようであれば介入してくれ」


とだけ念を押して、後は任せることにする。


しかし、すばるはエネルギーが有り余っているのか、しつこくとどろきへと絡んでいったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る