誉編 四例目

かつては俺も、ロボット、特にメイトギアに対して強い嫌悪感を抱いていた。


だがそれは、今から思えばお門違いの八つ当たりに過ぎなかったというのがよく分かる。


彼女達はそういう風に作られただけの存在だ。そんな彼女達に対して過度の嫌悪感を向けるのは、ほぼ言いがかりのようなものだろう。責任は、あくまで彼女達をそう作った人間の側にある。


人間社会にいた頃にはそれに気付けなかったんだよな。なんだか申し訳ない。


なんて思ってしまうのも、彼女達が人間に似すぎてるせいだな。


しかしそれも必要だから人間に似せて作られたのであって、あくまで人間の側の都合か。


と、これらも結局、メイフェアがあまりに健気だからついつい考え込んでしまう感じかも知れないな。




って、パパニアンの育児の話をしてたはずが、どうしてこうなった?


まあいい。


とにかく、ほまれ達の群れでは、他とは若干違う子育てが行われていたのは事実だろう。


それがどういう影響をもたらすのかは分からないが、少なくともあいつの群れの雰囲気そのものは決して悪いものじゃなかったと思う。


だが……








新暦〇〇二七年五月二十九日。




今日は俺とシモーヌとエレクシアで調査に出るはずだったんだが……


その準備をしていた時、


「ぎあっ!?」


という、悲鳴とも何ともつかない声が、ほまれの群れの中で上がった。


そのただならぬ気配に、メイフェアがすぐさま駆け付ける。と言っても、カメラで映像が確認できる位置まで近付くだけだが。


すると、雌の一人が興奮した様子で。


「ぎあっ! ぎあっ!!」


と何度も叫んでいた。その足元には、


「……まさか……!?」


「あれは……!」


メイフェアから送られてくるカメラ映像を見た俺とシモーヌが思わず声を上げた。


そこにあった、いや、『いた』のは、見た目にはまぎれもない<人間の赤ん坊>だったのである。


すぐにピンときた。ひかりあかりじゅんと同じ事例だ。しかしだからこそ、自分の腹から出てきたその<異形の何か>に、母親である雌が狼狽えているんだ。


しかしそれはマズい事態だった。母親は、自分とは似ても似つかぬその子を我が子だと認識できずに育児を放棄するか、場合によってその場で殺してしまう可能性もある。


とはいえ、普通のパパニアンの社会においては、その赤ん坊は淘汰されるべき存在であり、生まれてすぐに死んでしまうのが当然の成り行きだった。


だが、俺達人間はそこまで割り切れない。


だから俺はメイフェアに命令した。


「その子を保護しろ!」


ってな。


が、


「承知しました…!」


と、俺の命令を受けたメイフェアが動くよりも早く、その赤ん坊を拾い上げた者がいた。


ほまれ……!?」


無意識にその名を呼んだ俺の視線の先には、赤ん坊を抱き上げたほまれを捉えた映像が映し出されていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る