誉編 親として

「ううっ! うあっ!」


「あ! あ! ううあ」


<人間の姿をした赤ん坊>を生んだのは、ほまれの<嫁>じゃなかった。群れの雌が、ほまれ以外の雄と番って生まれた子供だ。だから遺伝的に俺とはまったく繋がりがない。


だからやはり、俺とひそかだったからひかりが生まれたわけじゃなくて、元々、こういう子供が生まれる可能性があるということが、実際にこれで確認されたということだ。


だがこれは、思った以上の頻度で生まれている可能性があるな。少し監視範囲を広げて、他の群れや他の種族でも同じような事例がないかということを確認する必要がありそうだとも思った。


しかし今は、まず、この目の前の事例に対処しなければ。


と思っていると、ほまれがその子を生んだ母親である雌に何か二~三声を掛けてその赤ん坊を抱いたまま器用に枝から枝へと飛び移り、移動を始めた。


ほまれ様…!? どちらへ…!?」


メイフェアがあいつの思わぬ行動に焦ったように声を掛けながら追いかける。


だがそれには構わず、ほまれは奔った。


そしてその方向は、間違いなく俺達の<家>がある方だ。


「まさか……!」


「もしかすると…!」


俺とシモーヌは顔を見合わせてある予感に立ち上がる。


そうしてほまれがいる密林へと近付いた。もちろん、そんな俺達にエレクシアが付き従う。


「音声確認しました。間違いなくほまれがこちらに向かっています」


エレクシアのその言葉に、俺達は緊張した。それと同時にセシリアに向かって指示を出す。


「セシリア! 新生児救急対応! 治療カプセルの用意!」


「承知いたしました…!」


俺の声にセシリアが素早く反応し、必要と思われる準備を素早く行う。


「なになに? どうしたの…?」


ただならぬ様子に、今日は調査は休みで寛いでいたあかりが家から出てきた。それに続いてひかりじゅんも出てくる。


「お前達の<新しい仲間>だ…!」


「……!」


一言で察したあかり達も互いに顔を見合わせ、それからセシリアの準備を手伝う為に光莉ひかり号へと駆け込む。じゅんも一緒だったが、あいつにはまだこの辺りは理解できないかもしれないが、何事も経験だ。


そうしている間にもほまれは俺の目にも見えるところまで来て、一直線に俺の下へと駆けつけた。その手に、生まれたばかりでまだ羊水に濡れた赤ん坊を抱いて、真っ直ぐに俺を見詰めて。


俺なら何とかしてくれると思ったのかもしれない。


俺やひかりに似た姿のその赤ん坊を。


なら、その信頼に応えなきゃいけないな。


人間として。


何よりあいつの親として。


子供の信頼には応えなきゃいけないだろう。


子供が自立したからって、


『知らん。お前らで何とかしろ』


じゃあ、あんまりにもってものじゃないか。


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