誉編 虐待の疑い案件
新暦〇〇二七年五月二十四日
時には群れの子供達に厳しく接することもある
ボスである
「うーっ! あーっ!!」
と叱り飛ばす。
何度も言うが、<恨み>をいつまでも引きずってしまうことも多い人間ならリスキーなそのやり方も、パパニアンの場合には効果的らしい。
しかも、
『自分が何か良くないことをした』
と気付くようだ。
普段から当たり前のように高圧的に振る舞っていると、子供の方もそれが<普通>になってしまって慣れてしまい、インパクトが薄れてしまう。
いつもは優しい母親がここぞという時に怒るからこそ、伝わるんじゃないだろうか。
人間ほどは複雑な語彙を持たないが故に、<言葉>では十分に伝えられないことを補う工夫なんだろうな。
だから俺も
彼女はロボットで、『決して人間を傷付けてはいけない』という大原則に従って行動するから、子供の首根っこを押さえ付けるなんてのはそれこそできないし、親がそんなことを日常的にしていては、<虐待の疑い案件>として関係機関に通告することさえするように作られているんだ。
しかも試験的にとはいえ<感情(のようなもの)>を与えられているから、
「ああ…ああ…!」
と、
関係機関に対して<虐待の疑い案件>として通告する機能が作動するものの、当然、ここではその<関係機関>が存在しない訳で、代わりに俺に、
「大丈夫でしょうか……?」
と問い合わせてくる。
その度にメイフェアが記録した映像を確認して言うんだ。
「大丈夫だ。見る限りは無茶なことはしてない。見守ってくれればいい」
ってな。
そうすると彼女も安心する。
これが、彼女と違って<感情(のようなもの)>を装備していないエレクシアやセシリア、そして<感情(のようなもの)>が機能していないイレーネの場合は、
『パパニアンは人間ではない』
と完全に機械的に割り切っているので、一切干渉しないし、狼狽えたりすることもない。
たとえ<子殺し>の現場を見たところで、俺にとって必要な情報だと判断すれば伝えてくることもあるものの、そうでなければ反応さえしない。
ただの<野生動物>と認識してるからな。
しかしメイフェアは、<感情(のようなもの)>を装備しているが故に、極めて人間によく似たパパニアンに対して、エレクシアやセシリアのようには割り切ってしまえないんだよな。
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