誉編 日々 その2

他の群れとの小競合いが生じ、ほまれの群れ全体にも緊張が広がっていた。


しかしほまれは慌てることなく、かつ引き締まった表情で現場へと急ぐ。


ボスに就任してからはまだ日は浅いものの、これまでにも散々対処してきたことだけに、ある意味ではあいつにとっての<日常>と言っても差しつかえないだろう。


とは言え、本当に些細なものであればボスであるほまれまで出る必要はないので、今回はそれが必要なことだと、哨戒に出ていた若い雄の小集団のリーダーは判断したのだろう。


それに応じ、ほまれはボスとしての役目を果たそうとしているのだ。


あおはボスであるほまれをサポートするために同行しているのだと思われる。


しずかは高齢だし、みことは子供達から目を離すわけにはいかないので、待機だ。ちなみに、ほまれの息子のたもつもすでに立派な<成体おとなだが、今回は別の小集団を率いて哨戒に出ていていない。


そうしてほまれが駆け付けると、そこには向こうのボスの姿もあった。


双方のボスが駆け付けたことで、さらに緊張感が高まる。


共に若い雄が前に出てなおも牽制が続く。


その後ろでほまれと相手のボスが睨み合う。


これまでにも何度か顔を合わせているものの、ほまれがボスになってからは初めてのはずだった。


すると、相手のボスがほまれの姿を見た途端に、明らかに嘲るような表情になる。ボスとしては若いほまれを見くびっているのだろう。


だからか、自分の群れの若い雄を押し退けて前へと出てきた。ボス同士の一騎討ち望んでいるのだ。自分の手で早々に決着をつけようと考えているかも知れない。


それを受け、ほまれも前へと出る。


あいつにしてみればまさに望むところだっただろうな。だから一気呵成に奔った。


自分を舐めているうちに決めてしまおうということだろう。


若気の至りとばかりに前に出てくるほまれの姿に、向こうのボスはますます馬鹿にするような表情になった。向こう見ずで無鉄砲な未熟者と侮っているらしい。


だが、それこそがほまれの狙いだった。


掴みかかってきたボスの腕を取り、体をひねりながらわざと一緒に地面へと落ちていく。


「あいっ!?」


思わぬ攻撃に、相手が素っ頓狂な声を上げた。そして咄嗟に逃れようと足で枝に掴まる。


が、そうしたことで逆にほまれに取られた腕が余計に極まる形になり、


「ぎーっっ!!」


と悲鳴を上げた。


正直、かなり情けない感じの悲鳴だっただろう。ボスとしては、な。


勝負はその時点で決していた。腕を痛めた相手のボスは戦意を失い、一応、戦おうとはしているらしいが、はっきり言って逃げ腰だった。そのボスも、決して弱いボスではなかったはずなのだが、メイフェアに戦い方もみっちりと仕込まれたほまれを侮ったことで墓穴を掘ってしまった感じか。


彼にまんまとしてやられたという訳だ。


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