誉編 碧 その6

俺は、ただ人形のように他人の言いなりになるだけの人間は好きじゃない。


それがどんなに可愛らしくても、美しくても、な。


だから決して俺の思い通りにいつも振る舞ってくれるわけじゃなかったひそかのことも今でも好きだし、あおのことも気に入ってるんだ。


って、何度も言うが、厳密には<人間>じゃないけどな。


でもまあ、遺伝子的にはほぼほぼ人間だから、俺の中では人間に準じた存在って認識ではある。


ただし、ロボットであるエレクシアはその辺りものすごくシビアだ。<法律上の人間>以外は人間とは決して見做さない。


これは、人間以外の生物を優先して人間を傷付けたりしないように設定されたものだ。


守るべきは常に人間であって、人間以外の生き物は、法律に基づいて対応する。<動物愛護法>とかな。


現在の(と言っても俺がまだ人間社会にいた頃の話なのでもしかしたら細かい部分は変わってたりするかもだが)<動物愛護法>は、人間の身体生命に危害が加えられない範囲において、人間以外の生物を保護するという趣旨だそうで、たとえ貴重な保護動物であっても、人間を襲い、他に対処法がない場合にはその場で<処分>されたりもするんだ。


もっとも、実際にその対処に当たるのはほとんどの場合ロボットであり、圧倒的な能力差を活かして、逆に殺すことなく対象の動物を制圧できるけどな。


要人警護仕様のメイトギアをはじめとしたロボットが過剰なくらいの戦闘能力を与えられているのは、実はなるべく対象を殺さないようにする為という意味もあるらしい。とにかく一瞬で相手を圧倒し、制することで、結果として生け捕りにするんだと。


なるほど合理的だな。


ただそれでも、どうしても共存できない相手の場合には、人間の生存を優先する。冷徹に、容赦なく。


これまでにもそういうことは何度かあった。グンタイ竜グンタイであったり、俺が<みずち>と名付けた、神話に出てくる<ラミア>のような半人半蛇の怪物的なのについては、そもそもこの惑星の他の生物にとってもあまりに危険で、生物としての道理に外れた生き物だったから、生存競争として駆逐させてもらった。


そういう場合を除き、基本的には殺さないように心掛けてる。


それは、ほまれ達を襲う<敵>に対してもだ。


ただ『危険だから』というだけで排除していっては、それこそ病原菌を運ぶような、それ以外は基本的に大して害もない小さな生き物まで皆殺しにしなければいけなくなってくる。


人間はかつて、<害虫>や<害獣>を根こそぎ駆逐しようとして手痛いしっぺ返しを食らったこともあるそうだ。


その反省から、


『人間にとっては害だ』


というだけで生き物を皆殺しにするような真似は避けるようになったんだよな。


そういう背景を知るはずもないだろうが、あおは、メイフェアのことをきちんと<利用>しようとしてる節がある。


いやはや、本当に強かだ。


しかし、それくらいでないと、野生の群れを率いていくことなんてできないんだろうけどな。


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