誉編 命 その5

偵察に出て他の群れと小競り合いになり命を落としたのや、事故で命を落とした子供達がいる一方、みことのように恐ろしい事件を辛くも生き延びた者もいる。


どちらも同じ命でありながら、その差はいったい何なんだろうと思ったりもする。


そして、自分の<嫁>達や子供を亡くした時にはあんなに感情を揺さぶられたのに、他所の家族が亡くなったことについては淡々と話す自分に軽い嫌悪感も覚えつつも、他所の家族のことまで自分の家族のことのように受け止めていたら人間は精神がもたないんだからこれは普通の反応だと、こうでなければ本来はおかしいのだと自分に言い聞かせて、でもみことが救われたことは素直に喜びたいとも思った。


と同時に、人間というのは本当に難しいなと改めて実感させられたよ。


だが、俺にとっては他所の家族でも、メイフェアにとってはそうじゃなかった。彼女にとっては大切なほまれの仲間であり、守るべき対象だった。だから、彼女は自分で、亡くなった者達の墓を作っているそうだ。


ただし下手に遺体に触ろうとすると反発を受けるので、メイフェアの作った墓には遺体はない。だから厳密には<墓>ではなく<慰霊碑>的なものだな。


それでも、メイフェアにとっては必要なものであるなら、俺が口出しすることでもないと思う。彼女のやりたいようにやってもらえばいい。


すると、その墓に花を供えていた彼女の下に、みことが近寄ってきた。ほまれに心酔するみことにとっては、自分のボスが認めているメイフェアのことは認めたいという気持ちがあるのかもしれない。しかし他の仲間の手前、それを表には出しにくいのかもしれないが。


それもあってか、ただメイフェアのことを見詰めるだけで、ほまれのように彼女に触れたりすることもない。


ないが、メイフェアにとってはそれだけでも嬉しいようだ。


「ありがとうございます」


パパニアンの<言葉>でそう言いながら頭を下げると、みことは特に返事をすることもなく、仲間のところに戻っていった。


もしかすると、以前、果実を渡そうとしてくれた子やみことのようなパパニアンが増えてくると、いずれはメイフェアも仲間として認められたりするようになるのかもしれない。


ただし、それを期待することはせずに、メイフェアは淡々と自分の役目を果たすだけだ。


そしてみことも、メイフェアと同じように、群れの中での自分の役目を果たそうとする。


その奇妙な関係も、この群れならではのものだっただろう。


俺はそれをメイフェアのカメラを通して見つつ、彼女達の行く末も見届けてやりたいと思ったのだった。


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