パートナーを喪うと(途端に弱る者がいる)

新暦〇〇二〇年十二月十日。




人間にも、パートナーを喪うと途端に弱る者がいるという話は聞いたことがあったが、それはワニ人間クロコディアにも当てはまるのだろうか。それとも、ちからがたまたまそうだったというだけか。


はるかを亡くして以来、ちからも生気を失い、池のほとりに座ってそれを眺めながら日がな一日ぼーっとしてることが多くなった。


そんなちからをどう慰めればいいのか、そもそも慰めるなんてことができるのかと思案しているうちに、はるかが亡くなって二週間後、後を追うようにしてちからも息を引き取った。


はるかのことが心底好きだったんですね……」


シモーヌがちからの遺体を撫でながら言う。


ワニ人間クロコディアも、基本的には乱交型の繁殖を行うことが多い種族だった。実際、きたるあきらは特定のパートナーを持っていない。


しかし、中にはちからはるかのように生涯同じ相手と添い遂げる例もあるということが、二人によって確認された。以前からそれと思しき事例はあったが、これで裏付けられた形だ。


亡くなったちからの遺体を、今度はエレクシアが、池の底、はるかが埋まっているその隣に埋葬してくれた。


「……」


あるじがいなくなった池を、ひかりが静かに眺めている。


彼女にとっても、仲の良かったきたるあきらの両親が亡くなったということで、やたらと泣いたりはしないものの、思うところがあるんだろう。そんな姉を見倣ってか、あかりも池に向かって手を合わせてくれる。


そうやって家族同然だったちからはるかを悼んでくれるのは俺としてもホッとするものがあった。


その一方、生態に違いが大きかったからかひそかふく達はあまり関わらなかったこともあってだろうか、じんの時ほどは気にしている様子もなかったが、これも、人間である俺の感性を一方的に押し付ける訳にもいかないからな。俺の方からは何も言わないでおこう。


じんに引き続いて、はるかちからと次々に<家族>を喪い、俺も正直、気持ちは沈みがちだった。


そんな俺を心配してか、ひそかが体を摺り寄せてくる。いつもの俺に甘える仕草に似ていながらも、それとは少し違う気もする。むしろ、俺に甘えるように促しているような……


だから俺を慰める為にそうしてくれてるんだろうな。


『辛い時には甘えてくれていいんだよ』


なんて言ってくれてるのかもしれない。


ひそかは優しいな……愛してる……」


歯の浮くようなセリフも自然と出てくる。


彼女達がいれば俺は大丈夫だ。


そのひそか達との別れも迫ってるんだろうが、それはひかりあかりやシモーヌやエレクシアがいれば何とかなるだろう。


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