まさか話題にしたから(という訳じゃないと思うが)

新暦〇〇二〇年八月二十六日。




まさか不定形生物のことを話題に出したからという訳じゃないだろうが、最近、はるかの様子がおかしい。元気がないんだ。


きたるあきら以降、子供ができなかったが、既にきたるあきらも巣立って子を生し、立派にワニ人間クロコディアとして生きている。きたるの方は四人目。あきらにも最近、三人目の子供が生まれたのが確認された。


子供達にも孫達にも特に何か問題は見られず、不定形生物由来の生き物もしっかりとこの世界に定着できるんだということが改めて確認できた。


その役目を終えたとでも言わんばかりの変化に、胸が締め付けられる気がする。








新暦〇〇二〇年十一月十一日。




そんな予感を裏付けるように、はるかは、日を追うごとに明らかに衰弱していった。病気ではないから治療のしようもない。治療カプセルで手当てしたとしても衰弱を少し遅らせる程度にしかならないことは分かっていた。


ワニの寿命はけっこう長いらしいが、ワニ人間クロコディアはあくまでワニ人間クロコディアであってワニではない。


そう自分に言い聞かせて、俺もその日を待つ。








新暦〇〇二〇年十一月二十五日。




日に日に弱っていくはるかを、ちからは甲斐甲斐しく世話を焼いた。餌を運んでやって食べさせてやり、いよいよ顎の力が弱って骨ごと噛み砕けないとなれば自分が噛み砕いたものを口移しで食べさせた。


その献身的な<介護>は、果たして人間でもここまでできるかというほどのものだったと思う。


しかしその甲斐もなく、はるかは静かに息を引き取った。明け方、エレクシアが心停止を確認。


はるかが亡くなりました」


と報告してきた。


「……そうか……」


寝ているところに報告を受けたことで、俺は、ぼんやりした頭ではるかを悼んだ。


意識がはっきりしてきて起きてから様子を見ると、ちからはるかの遺体をしっかりと抱き締めていた。


はるかの基となったのであろうワニ人間クロコディアの個体が病死した時には激しく泣いたちからだったが、今回のことは予感があったのか、そこまでじゃなかったようだ。


ひかりあかりも起きてきて、それぞれ、黙祷したり手を合わせたりしてくれる。


それから一時間ほどして、力ははるかの遺体を抱いたまま、池の中に姿を消した。


池の水が泥に濁り、そして十分ほどしてちからが再び姿を現した時には、はるかの遺体はなかった。


どうやらワニ人間クロコディアには、<埋葬>という習慣があるらしい。自分のパートナーが死ぬと、河の底の泥を掘って埋めるのだ。


これは、パートナーや自分の子供といった特別な存在だけにするものだと見られている。しない者もいるようだし、場合によっては食べてしまったりもするらしいが、ちからワニ人間クロコディアにしては柔和な気性だったからというのもあるのかもしれない。


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