鋭の角(これはまさに…)

新暦〇〇二〇年六月十七日。




元々、じんは気配を断ってることが多く、家の中にいてもその存在を掴ませなかったりしたから。いないような感じがするのが当たり前の筈だったのに、やっぱり何かが違う気がする。


それが俺の思い過ごしであっても関係ない。俺はそう感じてしまってるんだから。


でもそれを気にしてばかりもいられない。日々は変わらず過ぎていき、やらないといけないこともそれなりにあるからな。


それに、めいじょうも元気だ。めいかくの息子のえいも元気である。


ただ、えい本人は元気そうなんだが、彼の外見上のことで少し気になることがある。


と言うのも、元からあった頭の<でっぱり>が成長と共にさらに大きくなって、今では完全に<つの>になってしまっていたんだ。鬼のそれを思わせる、二本の立派なつのだ。


父親であるかくの頭にもつのを思わせる突起があったから<かく>と名付けたんだが、えいのそれは父親のものを遥かに超えて立派だった。


なんて、つのまで備えた凶悪そうな見た目をしているにも拘らず、えいは割とおとなしい性格のようだった。ボノボ人間パパニアンを襲うような素振りも見せず、普段の食事は昆虫や小さなトカゲに似た小動物が主だった。しかも<小食(あくまでカマキリ人間マンティアンとしてはだが)>だ。


これはカマキリ人間マンティアンとしては致命的な<欠点>かもしれない。俺と一緒に暮らし始めたころのじんから始まった食の変化が、ここにきて決定的になったということだろうか。なにしろめいも、彼女が生まれてから一度もボノボ人間パパニアンを食べていない。


ボノボ人間パパニアンは体毛が多く長いだけで、<コスプレした人間>にも見えるから、そういうボノボ人間パパニアンカマキリ人間マンティアンが食べるというのは、パッと見、食人行動カニバリズムにも見えてしまって、正直、気が滅入るというのもあった。映像でも何度か確認されてるが、そういうものだと割り切ってても気分までは変えられないからな。


とは言え、俺自身としてはカマキリ人間マンティアンの生態まで変えてしまうつもりはなかった。が、現にそうなってしまった以上、見守るしかないのか。


ただ、今のところは、何か困っている風には見えなかったけどな。他にも獲物が豊富にいる分には、わざわざボノボ人間パパニアンを食べる必要もないのは事実なんだろう。


さりとて、もし、他の獲物が捕らえられず、目の前にはボノボ人間パパニアンしかいなかった時、めいえいはそれを食べて生き延びることができるんだろうか。


まあ、飢餓状態になって追い詰められれば人間だって死んだ仲間を食べた何ていう話も聞くし、ひょっとしたらそんなに心配しなくてもいいのかもしれないが。


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