単純明快(生きるか、死ぬか、だからな)

新暦〇〇一一年九月三十日。




『自然には戻れない』


ほむらあらたさいりん達が自然には帰れない可能性が高いことを改めて突きつけられて、俺は正直、軽く凹んでいた。


いくら理屈を並べても次から次へと突きつけられる矛盾に頭を抱えそうになる。


『そもそも俺達がここにいることが間違ってるんだろうな……』


とは思うものの、同時に、


『だが、自然で生きてても何らかのハプニングでまったく別の環境に放り込まれることだってあるんだ。これだってそういうことの一つじゃないのか? 自然において諦観は美徳じゃない。醜くても不様でもみっともなくても、自分にできることを最大限やって生き延びるのが生きるということだ』


とも自分に言い聞かせる。


それに、なってしまったことを嘆いても始まらない。幸い、子供達の寿命はおそらく俺に残されたそれより短い。だからこの子達が生きてる間は俺がこの環境を維持すればいいんだ。


しかも、何が良くて何がダメなのかなんて、所詮はどういう立場でそれを見るかによって変わってきてしまうというのも事実だと思う。


ほむら達の在り方だって、ひょっとしたらここの生き物の進化の一助になる可能性だってない訳じゃないだろうし。


とにかく、全てはなってみないと分からないからな。


なんて、今回もなんとかかんとか自分を納得させて落ち着くことができた。我ながら厄介な性分だよ。


当のほむら達はそんな面倒臭いことは考えちゃいないんだろうな。単純に生きてるから生きて、自分が良いと思った相手を選んだだけってことなんだろうし。


そしてあいつらは、自分の選択がもたらすものをただ受け入れるだけなんだ。俺なんかよりあいつらの方がよっぽど立派だよ。


という訳で、俺は、改めてほむら達のことをただ見守るだけに決めたのだった。


その上で、あいつらの行く末を見届ける。どういう結果になるとしてもな。


俺達の住処の一部に勝手に住み着いてる形のしん達はまあ別にしても、ひかりあかりほむらあらたさいりんについては、このままここで生きていってもらうことになると思う。


要するにここは、この惑星の自然に完全には馴染めない半端者の為の集落ということになるのかな。


ま、それでも、俺にとっては人間社会よりはまだ気楽ではいられるけどな。いろいろ考え過ぎても、人間社会で考えてたことよりはずっとはっきり答えが出るし。


答えは単純明快。『生きるか、死ぬか』だからな。


生きていられたらそれでいいんだろう。


『どう生きるか』なんてことを問題にするのは、結局、人間だけなんだし。


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