お互い様(そういやそうだ)

新暦〇〇一一年一月二十六日。




駿しゅんは、俺達の群れに加わるようなことは結局なかった。あいつはただ、ろく号機の<娘>だっただけなんだ。


でも、もしかしたら、犬の祖先も最初はこんな感じだったのかもしれない。こんな感じで少しずつ近付いていって、お互いに距離を詰めていって、何となく傍にいるようになって、慣れていってっていう風に。


「最初からあまり馴れ馴れしくしない方がいいかもしれないですね」


シモーヌの言うとおりだと思った。駿しゅんには駿しゅんの生き方がある。その上で徐々にお互いに問題のない距離が確かめられていって、それで何世代か後に共生のように互いを利用し合えるようになれば、<仲間>のようになっていくのかもしれない。


だが、俺の方から意図的にそうなるように仕向けることはやめておこうと思った。あいつらの方から近付いてきてくれるならそれでもいいが、俺の方からっていうのは、あいつを<ペット>にしようとしてることになる気がする。


あいつは俺達のペットじゃない。厄介で困った奴かもしれないが、俺達の<隣人>なんだ。この惑星の上で一緒に暮らしてる、な。


隣人をペットにとか、失礼な話じゃないか。


たとえ命を奪い合う相手だとしても、それなりに敬意を持って接したいとも思うんだ。


冷静になって考えてみれば、きょうみずちも、共にこの惑星で生きる隣人だった。互いに懸命に生きようとして、たまたま俺達が勝ってしまっただけだ。


そういう気持ちを忘れないでおきたいと思う。


でないと俺はきっと傍若無人に振る舞ってしまう気がする。


そういうのは俺は望んでない。望んでなくてもついついというのがあるのが人間だ。それを忘れずにこれからもここで生きていくには、常に意識してなきゃダメだよな。


人間ってのは傲慢になりがちな生き物だ。自分は隣近所に迷惑を掛けながら、それを棚に上げて隣近所から掛けられる迷惑に憤る。自分は他人に迷惑は掛けてないと思い込む。


実際には、他人に何一つ迷惑を掛けずに生きることなんてできないのにな。


ここでも同じだ。俺達にとって厄介な獣に思えても、向こうからすれば俺達こそが厄介な獣なんだろう。


そう、結局はお互い様なんだ。


人間はそれも忘れがちって気がするよ。




その後も、駿しゅんは、陸号機に顔を見せに来るかのように、時々ちらりと姿を見せてはまたすぐいなくなるということを繰り返すようになった。


俺達を恐れてすぐそばにボクサー竜ボクサーが縄張りを作らなくなった空白地帯に、ちゃっかり縄張りを持つようになったらしい。他の群れから巣立ったのを次々と仲間に引き入れて。


まったく。上手いことやったものだな。


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