矛盾(生きることそのものが矛盾だもんな)

新暦〇〇一〇年二月二十八日。




ろく号機と駿しゅんのことについては、後はまあ、成り行きに任せるしかないと思う。


俺とシモーヌは情が移ってしまってるが、じんふくようらからするとただの<餌>だからもしかすると誰かに食べられてしまうという最期を迎える可能性もある。


実際、ように狙われたと思しき映像もあった。陸号機のカメラにようの姿が映っていて鋭い目で睨み付けてる様子が見られたんだ。


それだけじゃない。しょうの縄張りに入った時には、しょうにも同じように狙われていたようだ。まったく、油断も隙も無い。


だからその辺りは、駿しゅん自身が野生としての抜け目なさを発揮してくれることを祈ろう。


と言っても、今の時点でもなかなかに抜け目ないみたいだけどな。なにしろ、危険を察知するとすぐに陸号機のボディーの隙間に隠れてしまうんだから。


体が大きくなって隙間に入れなくなっても、たぶん、他の獣は陸号機には当分は近付かないだろうから、そのボディーに乗るだけでも安全だろうし。


しかも、光莉ひかり号のAIには、


「陸号機に懐いているボクサー竜ボクサーの子供を守れ」


と指示もしてある。だから駿しゅんがうっかり陸号機から離れてしまって狙われた時にはスタン弾でそれを追い払ったりもした。


そんなことをしてると、『なるべく干渉しない』っていう俺自身のルールに反してしまうんだが、その辺はまあ、『ドーベルマンDK-aの運用データを得る為』ということで折り合いをつけることにしよう。


しみじみ、生きるってのは、『矛盾と共にある』ことだと思い知らされる。


なにしろ、『最終的には死ぬことが決まってて、それに向かって生きる』んだから、これがそもそも大きな矛盾だって感じるよ。


そうだ。矛盾そのものは別に<悪>でも<許されざるもの>でもない。自分が生きる為には他者の命を奪って食べる必要があるのもいわば矛盾だと思う。特に人間は、命の大切さを説きながら他の命を食してる。


牛や豚は食べるのに、猫や犬は『食べちゃダメだ』と言う。だがここじゃそんなこと、俺とシモーヌとメイトギア達以外には誰も考えない。何を食べて良くて、何はダメなのか、人間ほど面倒臭くは考えてない。食べられるものを食べられるときにただ食べる。だけなんだ。


だから『駿しゅんは食べちゃダメだ』とは言えないし、言ったところで聞いてくれないだろう。


矛盾も、それこそただそこにあるだけなんだよな。


その矛盾とどう向き合っていくかっていうことで、人間は頭を使わなきゃいけないんだろうって気がするよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る