出戻り(人間だといろいろ言われそうだが)

新暦〇〇一〇年一月二十三日。




れんのことがあり、怖さを改めて実感しても、俺の家族への気持ちに変化はなかった。ここまでで既に分かり切ってたことだったというのもあるんだろうな。


人間の感覚とは違うというのを何度も自らに言い聞かせてきたし。


そして、そういう意味ではこの後にしんげんとのことがどうなったのかという点においても、気にならなかった。


まあ普通なら、自分の娘に対する仕打ちとしては『許せない』と感じるかもしれないものだったが。


と言うのも、子供が生まれてすぐに、げんの姿が見えなくなったんだ。


もっとも、それ自体があらかじめ予測されてたことだった。あんなにラブラブイチャイチャしてたのにと思ったりもしつつ、同時にそれがヒョウ人間パルディアの<習性>だからな。


ヒョウ人間パルディアの雄は、子供は育てない。子供ができるまではものすごく仲良さそうにするが、子供が生まれたのを確認するとさっといなくなってしまうのが、これまでの観察で分かってきていた。


他の雌と子供を作る為だ。


これも人間には理解できないだろう。話を聞いた途端に怒り出すのもいると思う。でもいくら怒っても無駄なんだ。


という訳で、今、しんは、こうかんを連れてうちに帰ってきてる。


この辺りは、群れを作るライオン人間レオンであることが影響してるのかもしれないな。


実際のライオンなら、よその群れの雄の子供を連れて元の群れに帰るなんてことはないにしても、彼女らは『ライオンを彷彿とさせる』だけであって決して<ライオン>じゃない。


人間の場合だと、『子供ができた途端に旦那に逃げられて子連れで出戻った』って話なんだろうが、正直、俺にとってはどうでも良かった。しんが帰ってきてくれたことが嬉しかった。


げんのことはどうでもいい。むしろかわいい子を作ってくれたことだけでいい。舅として娘婿に気を遣うのも面倒だ。


「本当に親バカですね♡」


などとシモーヌに笑われたが、あかりの世話を焼いてる時の彼女だって俺のことはまったく言えないと思うぞ。


どこかあどけなさも残しつつ、それでもライオン人間レオンとしては既に立派な<大人>であろうしんが子供達におっぱいをやる姿を見ながら、俺は何だか胸があたたかくなるような気もしてた。


れんのことは本当に残念ではあるものの、こういうことがあるのが<命>というものなんだろう。


それもひっくるめて、俺はこの家族を大切にしたいと思う。


もっとも、自分の娘が孫を連れて帰ってきたというのに相変わらずふくはぐうたらしてるだけだけどな。


たぶん、しんも、子供らが乳離れしたらこの感じになるんだろうなあ。


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