第4話「螭竜(あまりょう)」

 パレードが行き過ぎた後、バルコニーでは観覧者に軽食が振る舞われたが、品評会に加わる気がせず、早々に螺旋階段を下りた。

 通りには露店が出現していた。ドリンクを売る少年と目が合ったので、バウチャーの一片を渡して、透き通った青い炭酸水の瓶を受け取った。少年は翡翠とおぼしき凝った意匠のアクセサリーを胸に下げていた。中央に四角い穴の開いた丸いペンダントトップには、自らの尾を咬んで円を形作る、角のない竜が彫刻されている。

「これは螭竜あまりょう、すなわち雨を司るレイン・ドラゴン、我こそは、この町で一番の招喚者なり」

 少年が真ん中の空洞に唇を当てて笛のように吹くと、たちまち雲が凝集して我々にだけドッと雨が降り掛かり、すぐ止んだ。

「すみません、少々派手にやり過ぎました。お召し物を乾かさなくてはいけません。火の使い手を呼んでまいります」

 心配ご無用、火傷は御免こうむる。服は歩けば乾くだろう。狂気染みた山車と人の群れが残していった血痕が、ほんの少し洗い流されただけで満足だった。


                  *


     ショートショート連作『ひるの旅・その他の旅』Side-B【完】



◆ 縦書きバージョンは「旅寓」のみ『掌編 -Short Short Stories-』(無料)にて

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts

 他は私家版『珍味佳肴』(2016年2月刊)および

 Romancer版『珍味佳肴』(無料)でお読みいただけます。

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=20414&post_type=epmbooks


◆ 初出は「旅寓」のみ縦書き文庫、他はnote(2015年)、いずれも退会済。

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晝の旅・その他の旅◆side-B 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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