第5話 敵襲?


 ある日の昼ごろ。

 ルミアは受付嬢のレーニャと共にギルドの食堂で昼食を取っていた。


「そういえば、ルミアさん。昨日、アルネさんとデートしたんですってね」


 その言葉にルミアは途端に咽せてしまう。

 ごほっごほっと、咽ながらも水を飲んで息を整える。


「あ、あのねぇ……デートじゃないわよ。買い物よ、ただの買い物」


 持っていたフォークをレーニャの方に向けながら言う。


「や、やめて下さい、こっちにフォーク向けないで下さいよ。アルネさん言ってましたよ? ルミアさんならフォークで人を殺せるって」


「あ、アイツ……」


 その言葉にルミアは顔が引き攣る。アイツは私を何だと思ってるのだ、と心の中で不平を言う。キッと他のギルドメンバーと共に昼食を取るアルネを睨むも、全く気付く素ぶりがない。


「まあ、私からしたら、誘眠魔法で人を永遠の眠りにつかせるアルネさんもアルネさんですけどね」


「ちょっと、アルネのこと悪く言わないで!」


「ええっ!」


 どうしろって言うんですかー! と、喚くレーニャ。乙女心というのは難しいですねぇ、と自身もまだまだ乙女である筈なのに零す。


 ──こんなにも仲がよろしいのにどうして付き合わないんでしょう。


 レーニャが至極真っ当な感想を心の中で述べる。

 事実、このギルドの中には二人が付き合っていると思っている人間は多々いる。付き合っていないと知っているはずのレーニャでもたまに疑ってしまう時がある程だ。


 レーニャは辺りを見回す。十数人の冒険者が思い思いに談笑をしている。中には昼間から酒を飲んでいる者もいる。


「そういえば、今日は随分とお休みの人が多いですね」


「たまたま、みんなの休みが被っただけじゃない?」


 このギルドでは労働日や休日などが特に決まっていない。各々の冒険者がいつ休むかを自分たちで決めるのだ。


「いいですねぇ、お休み。私は午後からも仕事あるんですよ」


「仕事……大変ね。それに、こういう日って意外と何か起こったり──」


『緊急警報! 緊急警報! ギルドに所属する全冒険者は正門へお越し下さい!』


 けたたましい警報が鳴り響く。ギルドで寛いでいた者たちはドタドタと自室へと戻り、装備を取りに行く。


 そんな中、ルミアとレーニャのみが取り残されてしまった。


「わ、私のせいじゃ、ないわよね?」




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「いーやーでーすー!! 私には仕事が……仕事があるんですから!」


「貴女も冒険者登録してあるでしょ! 貴女が来ないと命令違反で罰金よ、罰金!」


 嫌がるレーニャをズルズルとルミアが引きずっていく。

 必死に身を攀じるも、抵抗むなしく連れられてしまう。


「これがアルネさんだったら抵抗出来るのに……」


「残念だったわね。非力なアルネじゃなくて」


「おい、本人がここにいるだろう」


 先程から二人の後ろをついて歩くアルネが二人の会話内容に不満を持ったのか、不満の声を出す。


「あら、本当でしょう? アルネが非力なのは」


 またもや口論を始めたのかと思えば、アルネは反論しない。今回ばかりは図星である為に言い返せないのだ。

 しかし、言われっぱなしは悔しいのか、苦し紛れに禁句を言い放ってしまった!


「はっ、筋肉ゴリラよりかは随分とマシ──」


 言い終わる前にアルネの耳元でひゅっ、と何かが擦れる音がする。それが目の前の幼馴染が放った拳が原因だと分かるのまでさほど時間はかからなかった。


「次は、当てるわよ」


「は、はい……」


 気迫に押され、アルネはそのままへたり込んでしまう。

 レーニャはアルネに近づくと。


「駄目ですよ、女性にそんなこと言っては。親しき仲にも礼儀あり、です!」


「……そうだな。すまない、ルミア。ついカッとなってしまった」


「私もよ、ちょっとやり過ぎちゃったわ。ごめん!」


 仲直りをするそんな二人の様子を見守るレーニャ。彼女はうんうんと頷くと。


「仲直りできて良かったですね。では、私はこの辺で──な、なんでお二人とも私の腕掴むんですか? お、お二人とも仲直り出来て今日は解散でいいじゃないですか?」


「諦めが悪いわよ」


「いい加減諦めろ」


 レーニャの腕を掴んだ二人がそのままズルズルと引きずっていく。


「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁあ!!??」



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「うぅ……私、受付嬢なのに……冒険者ギルドセレンのマスコットなのに……大体、アルネさんとルミアさんだけで十分なんですよ。他の冒険者なんて呼ぶから私の仕事が増えるんですよ!」


 先程までは泣き喚いていたと思ったら、今度は急に怒り出す。

 忙しい人間である。

 これでもアルネ、ルミアより年上だというのだから驚きだ。


「ほら、もう着くんだからあんまりそういうこと言うなよ? もし聞かれてたら冒険者たちに袋叩きにあうかもしれないぞ?」


「そんなことしたらもう怪我は直さないって言えば大丈夫ですよ、多分……」


 聖職者にあるまじき発言である。


 彼女──レーニャ・ラインはギルドの受付嬢であるとともに、冒険者でもある。毎日教会に赴き、女神に祈り続けることで人々を癒す力を授けられるのだ。

 そんな彼女たちを冒険者たちは聖なる職業に就く者──聖職者と呼ぶ。



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 アルネたちが街の正門へと着く。冒険者たちの集まりはまだまばらだ。装備の整えに時間が掛かっているのかもしれない。


 三人はそっと後ろから何が起こっているのかを見る。


 人が立っているようだ。それも一人で。髪が長いことから女性だろう。

 ちょうどアルネが着ているような真っ黒なローブを着用しているが、頭にはとんがり帽子を被っている。


「アルネさんアルネさん、アレって魔女さんですよね?」


「おそらくそうだろうな。俺に何か用事でもあるんだろう」


 魔女は先程から何もせずじっと立ち尽くしたままだ。

 しかし、冒険者たちが集まりだしてきた後に魔女が動いた!


「……ねぇ、アルネ。あれ何か言ってるわよね。全然聞こえないんだけど」


「ああ、俺も全く聞こえない」


 魔女は未だに何か話しているようだが、生憎距離が離れすぎているため、冒険者たちの耳には届かない。

 冒険者たちの反応から、ようやく聞こえていないことが分かったらしい魔女は突然顔をおさえ始める。


「あれ、何してるんでしょう?」


「大方、誰にも聞こえていないにもかかわらず、喋り続けていた自分が恥ずかしいのだろう」


 まさかぁ、とばかりにルミアは肩をすくめるが、アルネからしたらそうとしか見えなかった。


 魔女は今度こそ聞こえるようにその甲高い声で叫ぶ。


「出てきなさい! アルネ・クォーカー! 『賢者』の名を賭けて私と勝負しなさい!」

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熟練冒険者の未熟恋愛 @yagasaki

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