天道家に小さな家族がやってきた。

ただいまの時刻、16時。夏目と天道は、天道家のこたつで、天道の祖父母と団欒していた。

「お婆ちゃん、知らなかったわ。みんなで食べるみかんって、こんなに美味しいなんてねぇ。快斗君も食べて、食べて。食べ盛りなんだから」

「うっす。いただきます。いやー、こたつでみかんって冬の醍醐味っすね」

「そうだねー、日本に生まれて良かったと毎回思うからの。ふぉふぉふぉぼぉっふぉっ!」

「お祖父ちゃん、大丈夫っ!?お茶飲んでっ」

慌てた天道がお茶を手渡す。祖父が淹れたてのお茶で流し込んでしまい、また大慌て。ピンポーン、熱い飲み物は、食道癌の原因となるので気をつけましょう。

「うむ、大丈夫じゃ」

「無理なさらないでくださいな」

「ごめんよ、お祖父ちゃん」

天道がズーンと落ち込む。慌てるとテンパってしまうのが天道である。


「雪たんさん降ってるわね」

「そうしゃなー」

「あなた、そうじゃなーじゃなくて、雪かき行ってきてくださいな。天ちゃんとお鍋作って待ってますから」

ノーと言えない圧をかけてるのか、無意識なのかわからない祖母幸恵68歳。祖父ことゆき蔵65歳、姉さん女房には敵わない。

「じゃっ、俺も俺も!」

「なんだ、快斗君もやってくれるんのか!じーちゃんと」

「はいっ、いつも家でやってるんで慣れてますよ」

「そりゃ、頼もしいのー。ほぉほぉほぉっ」

ゆき蔵と夏目は、雪かきは外へ出ていった。



幸恵と天道は、鍋づくりに取り掛かる。

天道と祖母幸恵は、夕飯を毎日一緒につくっている。これは日課であって、趣味。天道の料理のレパートリーはお婆ちゃんのお料理。なので、定番料理はきんぴらごぼう、里芋の煮っ転がし、肉じゃが、鯖の味噌煮などなど和食中心。天道は、作ったご飯を夏目が美味しそうに食べているところを見るのにはまっている。


「今日は、何鍋にするの?」

「うーん、そうねぇ。どうしましょうか、シンプルに水炊きにしましょうか」

「いいね」

「お婆ちゃん、材料用意して洗うから、天ちゃん切ってくれるかしら?」

「お安いごようさ」

慣れた手つきで手早く切る。

ネギに椎茸、にんじん、白菜、水菜。お野菜切ったら次は、お肉。

切った順からお鍋の中へ。

早めに入れとくと、出来上がるのが早くなるから良いんだよね〜。

ふつふつ湧いている鍋の中へ放り込んでいく。

「天ちゃん、切るの上手くなったわねぇ」

「えへへ」

あったかい湯気が、台所に立ち上る。



お肉も入れたし、煮えるのを待つだけだな。あとはー、なんか他に入れるものあったかな?うーん、なんだろ?マロニーちゃん!

「お祖母ちゃん、マロニーちゃんってある?」

「マロニーちゃん?」

「そう、細くて白いやつ。ちゅるちゅるの」

「あー、あれねえ。待ってて、あったと思うんだけど……。あった、あったこんな奥に」

「随分使わなかったからね、よしこれを入れて完成っと」

「あらま、美味しそうにできたわね〜」


ガラガラッ玄関が開く音が聞こえる。2人が雪かきから帰ってきたのだろう。

「あらっ、帰ってきたのかしら。ならちょうど良いわ。持っていきましょ」

「うん」



「あー、寒い寒い。凍えそう」

夏目が鼻の頭を赤らめて、居間へ入ってくる。続いてゆき蔵が入ってくる。

「手の先がかじかんで痛い」

「じゃのう」

「2人ともお疲れ様」

天道が鍋を持ってきながら、笑いかける。

「おー、うまそう」

「幸恵さん、熱燗ちょうだい」

「はいはい、待っててください」

温かいお鍋をこたつに置いて、みんなで囲む。湯気がもくもくと高い天井へ向かって上がる。テレビをつけながら、談笑しつつ、鍋を食べる。

「冬の鍋はおいしいね」

「だな、このマロニーちゃんうまい!」

「よかった、入れてみて。快くんが喜んでくれるかなって思って入れてみたんだよ」

「そっか、あんがとよ天」

「ふふっ」



にゃーー にゃーー みにゃーー

「なんか、猫の鳴き声がする」

夏目が目を細めて、キョロキョロと落ち着きなく周りを見渡す。ある一点を一心に見つめたと思ったら、一気に突進した。まるでイノシシのよう。


外から、猫の気配がする。

外は雪が降っているから、いるとしたら軒下か?

待ってろよ、今行くからな!!

夏目は、居間を飛び出すと、廊下の扉を開けて軒下をのぞき込んだ。

猫はいなかった。

嘘だろーー。

いや、いた。猫は軒下のバケツの中にいた。

青い鉄のバケツの中に隠れていたのは、少し小さな白に黒い模様の猫。さっと、持ち上げるとバケツのまま家の中へ持ち込む。

「おまえ、ひとりなのか?かーちゃんはどうした?」

みゃ?

凍えている猫は、小刻みに震えている。

「まずは、温かい部屋に行こうか?」

みやーみやーん

めちゃくちゃ人なつこい猫じゃねーか。


「うわっ!どうしたのその子」

「拾った」

「拾った!!」

「まずは、風呂かな」

「あれま、めんこいなー」

「天のおじいちゃん、こいつ風呂に入れたいんだけどいい?」

「いいぞー、たんと入れてやりな」

「あざっす、天ついてきて」

「あ、うん。待って」

こうと思ったら、即行動の夏目。天道は頭がまだ追いついていない。



「怖くないからなー」

怖がらないように笑顔になるほど顔が怖くなっていく。

みにゃ

心なしか猫も不安そう。

「それじゃ、だめだよ。快くん。猫ちゃん渡して」

「お、おう」

手早く猫を洗っていく。手つきが優しい。

「猫ちゃん、あと少しだからもうちょっと我慢してね」

みゃーん にゃ


洗ったら、ドライヤーをかけていく。

丁寧にどこも濡れていないのを確認してから、完成。

土がついて少し、茶色がかっていた毛も真っ白に。毛のつやも良くなった。


「快くん助けてええええええ」

「どう……し、た」

「猫ちゃんがくっついて、離れなくなっちゃったよーー。うえーん」

「はあアアアアア!」

天道の顔面にくっついて離れなくなっていた。天道マジ泣き。



少し落ち着いて。猫は、天道になついたのだろう。それは、もう凄く。猛烈に。

「ほら、こっちこい」

シーーーーン

反応なし。ガン無視。もう天道に夢中のようである。

「えーーー、俺がみつけたのに」

「猫ちゃっ、あっ。爪が痛い」

猫は、まだ天道の顔面に張り付いている。マタタビ効果でも天道からででいるのだろうか、疑うレベル。


夏目と天道は、ゆき蔵と幸恵にかくかくしかじかと報告。

「もうこうなったら、わしらで飼うしかないかのう。幸恵さんどうかね?」

「私は、いいですよ.かわいらしい子が増えるのは、いくらでも嬉しいものです」

と満場一致で天道家に小さな家族が加わることになった。

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天道くんと夏目くん〜二人の青春してるような、してないような穏やな生活〜 沖田 @oktuvl

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