夏休み、2人で海へ遊びに行きました。

ミーンミンミン ミーミンミンミンミーー

ジーーッ ジーーッ ジーーッ……


皆さんこんにちは。

夏である。

夏休みである。

夏休みとは、学生が楽しみに楽しみに待っているアレのこと。

海に花火にバーベキュー、大きなイベントが盛りだくさんの季節。

夏目は天道の家で、宿題やってる天道の側でだらけていた。


「なーあ、暇だよなぁ」

「えっ、うーんそう?」

ジーーッ ジーーッ 

カリカリカリ……


10分後。

「なーあ、暇だよなぁ」

「うーん」

カリカリカリ……


「喉渇いた」

「えっ、待ってて、今持ってくるね」

とたとたと木造の廊下を裸足で、台所へ向かう。外は暑い。木造建築の祖父母の家は、涼しい。裸足の足が気持ちいい。

なんかあったかな〜?

天道は冷蔵庫を開けて中を覗き込む。

じーっと見ても、変わらない。

じーっと見ても、変わらない。

何度見たって変わらない。

何にも入ってない。がーん。快くんは、サイダーとかシュワってしたの飲みたがるしなぁ。どーしよう。あっ、買いに行けば解決だね。

「快くん飲み物なくて、買いに行かない?歩きで近くのコンビニまで、どう?お水ならあるんだけどね」

「コンビニー、行く行く行く!じゃっ、早速行こうぜ!」



かれこれ15分、熱々に熱された鉄板焼きされそうなほど熱いアスファルトを歩いている天道と夏目。これも青春じゃないか。ただ、天道が屍のようになっている。大変だ。虚弱な天道耐えられるか!?

「大丈夫か?休むか?」

「ううん、だいじょーーぶーー。あと少しなら、歩けそう」

「おまえそれ大丈夫っていうか?まあ、そろそろだから頑張ろ、な?」

「うん」


生活道路を黙々と進み、やっとのことでコンビニという空調が効いたところへ着いた。

「あー、生き返るー」

「天国みたい」

夏目は、体力が有り余っているのでピンピン。

天道は、屍のまま。ふらふらと。

正反対。

「何飲む?コーラ?それともさ、アイス食べない?」

「おっ、良いな。それ」

さっそく、2人素早くアイスコーナーへ。

夏目は、さっとソーダのアイスを選ぶ。天道は、なかなか決められない。あーとか、うーとか、唸りながら選んでる。

「決められない?」

「どれも美味しそうで、どうしよう快くん!新発売のアイスも気になるし、こっちの定番も美味しいし、安定をとるか挑戦するかの2択なんだけど。選べない〜。なんて、僕は優柔不断なんだろ。自分に自信が持てないよ」

「ほらほら、アイスきめんだろ。天ちゃんの優柔不断なとこも好きだし。そのままでいいよ。俺、その新発売のやつ食べるからさ。天は、そっちかいなよ。食べあいこっていいじゃん、なんかたまには違うのも食べたいし」

「ぐすっ、快くん。ありがとう。照れちゃうな、好きだなんて」

「ほら、いいから。いくぞ」

「うん!」

ありがとうございましたー。



「ほら、ん。どーぞ」

「えへへ」

ぱくつく天道。猫にエサをあげる、飼い主みたいな夏目。

「はい、快くんも、どーぞ」

「ん」

「うまい!定番のチョコバー、うまい!」

「そーだねー。快くんのバナナ味のアイスもバナナの味が濃くて好きだな〜」

「もうちょい、くれよ」

「はい、どーぞ」

大口じゃなく、小口で食べる夏目。

「ん」

「ありがと」

2人で半分こ。なんとも、微笑ましい光景。

天は、細いからなあ。いっぱい食べてくれないと心配だからな。どんどん食べて、もうちょい肥えさせるきゃないか。

などと、夏目は頭の隅で思ってる。

「天もっと食えよ」

「へっ?」



天道が何かをじーっと見つめてる。眼光を光らせる。キラキラ。

「なんか見つけたか?」

「うん」

「どれ?」

「あれ!あのポスター見てみて。海。海水浴って始まったんだね。夏ですね」

「おー、夏っぽくていいな。行くか、海?」

「えっと、ほら、さ、僕ってさ、弱いし、さあんま向いてないと思うんだよね。あーゆう派手な遊びは」

「海水浴は、派手な遊びだけじゃない。砂遊びだって、貝殻採取だって、地味だけど立派な海水浴の醍醐味だぜ!まっ、いってみっか!な、てーんー」

「う、ううう」

こうなったら、無理矢理でも連れて行きそうだよー。ガクブル。

「じゃっ、行こうぜ!」

「ええー!今から!?」

「そう、今から」

ニヤリ。

こうと決めた夏目快斗の行動力は、凄いのだ。


コンビニの前にある、バス停から海へ。片道20分。一番後ろの席に座る。

「水着どうする?」

「僕、海入らないから」

「拗ねんなって、上脱いで入れば良いか。ちょうど俺ら、短パンだしな。ちょー気持ちいいからちょっとだけでも、入ろうな」

「少しだけなら、いいけど……」

「なら!今のうちに寝とけ。体力温存だ」

ウキウキ気分で、バスの大きくもなく、小さくもない揺れに揺られ。爆睡。


「天、起きろ」

肩を揺する。

「ふにゃ?」

「ふにゃ、じゃなくて、起きて」

「ううん、着いたの?」

「そう」

「綺麗」

「だな、めっちゃ泳ぎたくなる」

お天気も良すぎるくらい。ジリジリと肌を焼いていく。海水浴をしに集まった客で、ビーチは混み合っている。たこ焼き屋、かき氷の屋台もあって、まるで小さなお祭り。小さな子供が親子で、かき氷を食べている。

リーン チリーン

リーン リーン リーン

屋台に付いている、風鈴の音。

「快くん、先に海に入ってきていいよ。僕寝起きすぐじゃ、動けなくて。ゆっくり、砂浜で遊んでるから」

「そうか」

「うん、気をつけてね。溺れないようにね」

ぱぱっと上のTシャツを脱ぐ。ダッシュで海へダイブしに行った。どれほど泳ぎたかったのか。


心配だな。運動神経がいい快くんたけど、もしもがあったらどーしよう。だめだ、心配しすぎて鬱陶しく思われたら、悲しすぎて辛い。

天道は、砂浜にしゃがんで夏目のことを心配。しゃがんで俯いている姿は、暗い。暗すぎる。体調不良にみえる。青白い肌が余計に、体調悪く見えてしまっている。

はっ!だめだめ。

せっかくの海水浴。僕も少しでも楽しもう!

「綺麗な貝殻とかないかな。ガラスのカケラもありそう」

白い大きな貝殻。

内側が紫色の細長い貝。

茶色や緑、薄い黄緑、水色、カラフルなガラスのカケラ。

目をキラキラさせて、探す。

気に入ったものは、ポッケの中へ。

夢中で採取。


その頃、夏目はクロール で沖に浮かんでいる遊具まで泳いでいた。海賊船をモチーフにした遊具。ずいぶん沖にある。辿り着ける子供がいないのか、大人ばかりが優雅な上で優雅に寛いでいる。子供たちの間では、辿り着けたものは勇者らしい。これは、もう設置場所のミスである。


「ふう、やっと着いたー。いや、これ遠すぎだろ。天は、無理だな。浮き輪があったら、引っ張って連れて来れたけど、今ないし。それに、怖がりそうだしやめとこ」

海賊船をモチーフにしているこの遊具は、かなり大きい。入り口から、入ると木のデッキがある。

寝そべることが出来る椅子でちょっと休憩しとこ。泳いだら、腹減ったな。だいたい、ここまで250メートルくらいか。めっちゃ、泳いだな。戻ったら、天となんか食いてぇな。なーにやってっかな天。


それから、夏目は平泳ぎで戻る。

浜辺へ近づいていくにつれて、浅瀬になる。

残り20メートルくらいは、足がつく。

バシャバシャと水をかき分けて、歩いていくととんでもない光景が見えてきた。

あちゃー、絡まれてる。

うちの子、絡まれちゃってるよ。奥さん。

もう、なんであんないかつい、にーちゃん達に囲まれちゃってるの?

あんな、ふるふる震えちゃって。

ゴリラに囲まれた、うさぎだな。ゴキブリホイホイ並みに、厄介ごとに巻き込まれる不運な天ちゃん。可愛いな。



数分前ーーー

天道は、ふらふらと足元をみて歩いていたらガラの悪い高校生くらいの集団にぶつかってしまった。またまた、不運にもかき氷がぶつかって少しこぼれてしまった。そしたら……案の定絡まれる。

「ふぁっ!」

「おい、どこ見て歩いたんだ!って、ああーっ、俺のかき氷こぼれちゃったじゃん。どうしてくれるの?」

「す、すみません」

「おいおい、何やってんの?男が貝殻拾って、にこにこしてるの、ださーー」

「何歳でちゅかー?」

「あの、あの、あの、ごめんなさい」

「謝って済んだら、お巡りさんいらないんだわ」

「べたべたするしさー」

「べ、べ、べんしょ、弁償します」

「弁償してくれるわけ、ありがとー。じゃさ、お詫びにかき氷だけじゃなく、たこ焼きと焼きそばとラーメン奢って」

「えっ、そんなに」

「なー、お兄さん達何やってんの?」

「ん?部外者はすっこんどけ」

「お兄さん達こそダサイっすよ。今時、大勢で弱いものいじめはモテないですよ、これ絶対!」

「えっ!そうなのか!?」

「モテない」

「はい、そうです。そうなんで、引いてくんないすか?かき氷は弁償しますから」

「モテないのは、困るからな。しょーがない、それで手を打ってやる」

「ありがとうございまーすっ」




「快くんありがとう。ごめんね、僕のせいで」

「?全然、一緒にいるとトラブル続きで、楽しいよ、お前といると」

きゅーーん

「そんな、嬉しいことばっかり」と小さい声で呟きながら顔を背ける。

「なんか言った?」

「んーん、なんでもない」

満面の笑顔を夏目へ向ける。極上の笑み。エンジェルスマイル。夏目は、赤面する。不意打ちの笑顔に弱いので。

「たこ焼き食べたい!天はなんか食わない?」

「何急に」

「いや、ずっと腹ペコでさぁ」

「腹ペコかあ」

「何ニヤついてんだよ」

「ニヤついてないよー」

「ニヤついてるぞ」

「だって」

「だって?」

「言い方が可愛くて」

「なにぃ、可愛いとか言うなよ」

「ふふっ」

「あーもう、買いに行くぞ」

「うんっ!」

「たこ焼きとー、ラーメンだな」

「僕、唐揚げ」

「そんだけかよ、もっと食べろ」

「快くんが食べ過ぎなだけだよ」

「そーか?」

天道は、うんうん頷く。ハムスターみたい。

「おじちゃん、たこ焼き一個とラーメン一個お願いします」

「えっと、唐揚げひとつください」

「あいよっ!席に持っていくから、座ってて良いよ」

「ありがとうございます」



ズズー

「うまい、お腹空いてたからすごいしみるーっ」

「海の音聞きながら、食べると美味しい」

「たこ焼きはい」

たこ焼きを口の前へ差し出す。

パクつく。また、餌付け。

「はつ、はついっ」

「ぷっ、あはは。なー、熱いよな」

もうっ、快くんったら笑い事じゃないよー。アツすぎるよー。

「せっかく、来たからさ泳ぎに行こうぜ。食べ終わって、少し休んだら」

「うん、快くんとなら」

ラーメンとたこ焼きを早食いする。その隣で、夏目を見ながらニコニコして唐揚げをつまむ。




「冷たーい!!」

「ほらほらっ」

夏目は、はしゃいで水をかける。天道の運動神経では避けれずもろ当たる。

「あぎゃっ!やめてよー、えいっ!」負けずと天道もかけるが、全くかかってない。

「ぎゃー」

「え?どうしたの?」

「天、どうしよ。クラゲ」

きょとん。

「それ、ビニール袋だよ」

足に絡んでいたのは、海に流れていたビニール袋だった。勘違い。

夏目は、赤面で強がる。

「おお俺も、分かってたよ!ジョーク!」

「ふふっ、そうなの」



たくさん遊んだ天道と夏目。

ゆっくり沈んでいく夕陽を座って見つめる。

海に赤い色が映る。

天道は、疲れから夏目に寄りかかる。一歩も動けなそう。くたくただ。

「帰りおんぶしてく?」

「ううん、頑張って帰る」

「もう半分寝てんじゃん。甘えとけばいい」

半端強引に天道を持ち上げる。バス停まで、おんぶして歩く。バスにのって、コンビニの前まで。そこから、天道の家までおんぶ。体力の有り余る夏目だからこそ、できる。

「天は、もっと運動して体力つけねーとな」

「ランニングとか?」

「うーん、もっと簡単なやつだろ」

「散歩?」

「いいな、散歩。そっからだな」

「ええー、そんなにレベル下げるの?」

「そう」

「そんな」

「俺も一緒に歩こっかな」

「えっ!それなら頑張れる」

「じゃ、毎朝一緒に散歩するかー。ちょうど、太郎の散歩もしたら良いし。天の体力アップと太郎の散歩できて、一石二鳥」

「そうだね」

すっかり、薄暗くなって家に到着。良い匂いが漂ってくる。

天ちゃんのばーちゃんが、夕飯作ってんだな。なんだろ。カレーかな。いやでも、これは肉じゃがだ。くんくんと、夕飯の匂いをかいでいると…

天道がもじもじ。もじもじ。

「送ってくれてありがと。気おつけて帰ってね。これね、貝殻なんだけど、見た瞬間快くんにあげたいと思って。よかったら」

薄桃色の小さな貝殻を両手で差し出して、ぎゅっと目をつむる。精一杯な天道。

「いいってことよ。さんきゅーな、天ちゃん。大切にする」




後日、2人の部屋には綺麗な小さい貝殻が飾られているのであった。

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