第6話17歳の誕生日(夕)

あぁ、5時だ。やっと仕事が終わった。

そそくさと片づけを始める。

同僚がにやにや話しかけてきた。

「今日はえらくお早いお帰りですな」

うるさい、だまれ!ふん。仕事じゃなくったって忙しいんだよ。

「ちょっとね、まあね」けむに巻いてやる。

「さては彼女ですかね?お食事プラスホテル直行コースですかね?」

同僚がにやにやと探ってきた。

「ばーか、家族サービスだよ、おふくろのさ」

「ママ殿ですか。マザコンでしたっけ」とへらへら笑っていやがる

うるさい。

「義理のね。だから、余計にちゃんとしないと大変なんだよ」

怪訝そうな顔の同僚を尻目に、おれは会社を飛び出した。


そりゃそうだろう。ほんとの母親じゃないから、やっぱりいろんなことが

「いいのかな、どうなのかな、やめよかな」になるさ。

でもそういうときに、ちょっとした贈り物で家族円満にいくのなら、

やっぱり送るし。

まあ、そもそも、本当は今日は妹の誕生日だし。

そんなことを会社のやつに行ったら、、、ああ、恐ろしい。


とりあえず、まずお花を買っていこう。

カスミソウと薔薇を包んでもらって、帰宅した。

「ただいま、帰宅しました」


母さんを探して台所に行った。

「ねえ、これ喜ぶと思う?」と母さんに尋ねてみた。

「当たり前よ、とっても喜ぶわよ」

「母さんに買ってきても喜んでくれるの?」

「とっても嬉しいに決まってるじゃない。ありがとう。」

「でもさ、やきもちを焼く人が一人いるからね」

「父さんは大丈夫よぅ。なんで自分の息子にやきもちやくの?変でしょ。」

ならいっか。良かった。

「ほんじゃ、今度買ってくるね。あの、花瓶が欲しいんだけど。」

ごそごそと母さんがガラスの花瓶を探し出してきてくれた。

水を入れて、お花を活けて、いもうとの部屋に持って行く。


部屋では一心不乱に今日の宿題に取り組んでいるいもうとの姿があった。

扉をこんこんとたたいた。


「あーっ、びっくり。どうしたの?」

「気に入ってくれるといいなっと思って。」

「わぁー、素敵なお花、ありがとう」

「宿題早く終わらせろよ。今夜はごちそうみたいだよ」

「うん、わかった、リキ入れて頑張る!」


「喜んだでしょう?良かったわね」と母が話しかけてきた。

「うん」

「いつもいつもあの子に親切にしてくれてほんとに感謝しています。ありがとうございます」と母さんがぺこりと頭を下げた。

「だって」


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月のうた 渡邉陽太 @hirotawatanabe

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