第5話 17歳の誕生日(朝)

とんとんとんと遠くから音がする。

母さんが朝食を作っている。

いつもと変わらない朝だ。

だけど今日はちょっと違う。

だってさ、17歳の誕生日なんだ。

誰のって?そりゃいもうとのさ。


いもうとが家に来たのはいつだっただろう。もう、とっくに忘れたよ。

いもうとがここにいるのが当たり前ってことかな。

あいつが来た時は確かに小さかった覚えがあるんだが、

いつのまにこんなに大きくなったんだろう。

大きくなっただけじゃない。

それが困るんだけど。


「おはようございます」といもうとが言う。

父さんも母さんも「おはよう」 と答えている。

僕ももごもごと「おはよう」と言った。


ちぇ、制服着てるじゃん。


あぁ、そうだ、いもうとってば、まだ学生なんだよね。

高校通っててさ。


「なあ、朝、車で送ってやろうか」


「えー、いいの?ありがとう、お兄ちゃん」


「仕事の方は大丈夫なの。それに、帰りはどうするの」母さんがきいてくる。


「大丈夫だよ。心配ないし」


「帰りも迎えに来てよね!」


「よっしゃ!今日誕生日だもんな」


「うん!今日は誕生日だもんね!」


「あんまり甘やかしちゃだめよ。母さんが迎えに行くから。」


「今日は誕生日なんだから、今日ぐらいは甘やかしても、、」と、おれ。


「いいんじゃないか」と、父さんが一言援護射撃。


「まいっかぁ」といもうとが笑う。


「まあいいわね、今日ぐらいはね」と母さんが独り言を言って朝食の支度を再開した。


母さんも父さんの一言には弱い。


惚れた弱みってやつ?


でもさ、ほんとはどっちが惚れてんだろ?


まあね、どっちもどっちなんだろうな。


おいらに、そんな人ができるんかな?どんな人かな。


え?


いもうとにも、そんな男が現れるんだろうか。


そいつがいもうとをかっさらっていくんだろうか。


おれから?


そう思ったとたん、気持ちががくんと下がった。


いもうとが小さいままでいてくれればいいのに。


どうして、あんなに成長するんだろうなあ。。。


いつまでも小さいまま、

おれのいもうとのままだったら、、、。

いいのになあ。


「早くご飯食べなさいよ。遅れるわよ」


母さんの言葉で、我に返った。


「すみません」と他人行儀に言ってご飯をかき込んだとたんに、おれはゴホゴホとむせこんでしまった。


「大丈夫?」と目を丸くしていもうとが心配そうに見つめる。


「学校は自分で行くからいいよ」


「だ、大丈夫だって」


「でも、やっぱり、自分で行くから」


「そうしなさい。もう大きいんですからね」


「そうよ、もう大きいんですからね、私、もうすぐ17歳ですからね」

と、いもうとが母さんの口真似をした。


新聞を読んでいた父さんが、ぷっとふきだした。

「大きくなったよなぁ」


「そんなことしゃべってなくていいですから、早く仕事に行ってください、二人とも!」と忙しそうな母さん。


おれと父さんは慌ててご飯をかき込むと、家を飛び出した。

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