4)試行としての詩の再構成

 ここで私が行う試みは一般的に無意味な行為かもしれない。また私が嫌ってきたはずの原詩のニュアンスを破壊することになるかもしれない。ここまで熱心に読んできた読者には失礼とは思うが、この章は読み飛ばしても構わない。

 しかし、話すのはともかく、読本による教育を受けてきた一般の日本人にとってこの詩を理解するのは恐らく難しいのではないか、と思い、私は敢えて詩の語句を分かりやすいように並び替えてみようと思う。当然、原作の韻律は壊れる。


We* must away ere break of day(我々は出かけなければならない)

Far over the misty mountains cold(霧山の寒さを越えて)

To dungeons deep and caverns old(故郷の山の下の穴へ)

To seek the pale enchanted gold.(呪文で守られた金塊を探すために)


The dwarves* of yore made mighty spells,(古のドワーフ達は強力な呪文を掛けた)

While hammers fell like ringing bells(鐘が鳴るごとくハンマーを振り下ろす間に)

In places deep, where dark things sleep,(深く暗い者達が眠る場所で)

In hollow halls beneath the fells.(荒れ野の下の広大なホールにて)



They* shaped and wrought,

There many a gleaming golden hoard(彼らは眩いばかりの金の宝物を形作り細工した)

For ancient king and elvish lord(古の王とエルフの君主のために)

and they caught light

To hide in gems on hilt of sward.(さらに光をとらえ剣の柄の宝石に隠した)


they strung On silver necklaces

The flowering stars, (彼らは銀のネックレスに花の様な模様の星を繋いだ)

they hung on crowns

The dragon-fire, in twisted wire(彼らは王冠に竜の吐く火を捻れた二つの線として吊した)

They* meshed the light of moon and sun(彼らは月と太陽の光を網で捕らえた).


Far over the misty mountains cold

To dungeouns deep and caverns old

We* must away, ere break of day,

To claim our long-forgotten gold.


they* lay There long, Goblets they carved there for themselves

And harps of gold; (注:ここにセミコロンがあることに注意)

where no man delves(彼らは誰も掘ることをしない場所に自ら彫り物をしたゴブレットと金のハープを埋めた)

and many a song* Was sung unheard by men or elves.(そして多くの歌が人間とエルフによって歌われることは無かった)


The pines* were roaring on the height,

The winds* were moaning in the night,

The fire* was red, it flaming spread;

The trees* like torches blazed with light.


The bells* were ringing in the dale

And men* looked up with faces pale;

The dragon's ire* more fierce than fire

Laid low their towers and houses frail.


The mountain* smoked beneath the moon;

The dwarves*, they* heard the tramp of doom.

They* fled their hall to dying fall

Beneath his feet, beneath the moon.


Far over the misty mountains grim

To dungeons deep and caverns dim

We* must away, ere break of day,

To win our harps and gold from him!



 この試みで理解したことは、Tolkienの詩は、韻を踏み語調を整えるためにある程度の意味の混同、曖昧な表現を敢えて行っていることである。これは英詩に限ったことではないが、それでも言葉の力の合理性は保っている。欧米の詩のように脚韻を踏むのは得意ではない日本語でも、語呂合わせという言葉の行為があるが、現代ではどちらかというとたあいもない遊びとして理解される場合が多い。だが一昔前までは表現を豊かにする文学的表現として用いられていたことを忘れてはいけない。


 この様に英詩は意味、物語の整合性を取りながら語調(破裂音を含む)に規則性を持たせるために単語を駆使出来る。これが韻律である。ギリシャ語はさらに自由に語句の順番を変え韻律を持たせたと聞いたことがあるが、専門では無いので識者のご意見を待ちたい。

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