ヴィンテージギター

@chokio

第1話

ーーーこれは、楽器店に勤めている友人Aから聞いた話だ。特定されない範囲で細かい箇所は変えている。場所は関西。その事件は数年前に起こったとだけ書いておく。

音楽専門学校を卒業後、楽器店に就職したA。楽器店の社員の仕事内容は販売、修理メンテナンスなど。店長クラスになると海外に行って仕入れもする。その店長が仕入れた一本のアコギからこの話は始まるーーー


アメリカでは大規模な楽器展が夏に開かれる。「家の物置で眠ってた」「有名ミュージシャンがデビュー前に使ってた」「高級品に偽造した安物」理由は様々だが、とにかくアメリカ中から楽器という楽器が一カ所に集まる「超大規模な楽器専門のフリマ」だ。メインの仕入れを午前中には済ませられたので、夜の帰国便まで多少時間ができた。掘り出し物でもあれば、という感覚で見て回っていた。


「個人・企業問わず数百の小さなブースで展示しているもんだから、浮かれ気分でいるとまがい物をつかまされるぞ!気を引き締めろ。」


過去に上司の付き添いで来る度、何度も言われていた言葉を思い出す。しかし、楽器好きなら、どうしたって気持ちが昂るものだ。大量の楽器を仕入れたい!ただ、仕入れ値やメンテナンス費、輸送費などを計算し、関西の小さな店でいくらなら捌けるかの利益率を考慮すると、これだというモノはなかなか見つからない。帰ろうかと思った矢先にふと、一本のアコギに目が止まった。某有名ブランドの50年代のアコギ。日本での販売相場は本体だけで80万円前後にもなる。それがオフィシャルハードケース付きで20万円で売っている。ケースには年期が入っているが、音色は試奏してみたところ特に問題は感じない。ボディーに目立った色落ちやダメージもなく美品だ。常連のお客さんで、このブランドの古いアコギを何十本も集めている金持ちのマニアがいたのを思い出す。売り手がほぼ確定している商品。迷わず仕入れて、日本に戻った。


読み通り、金持ちのアコギマニアにすぐ売れた。が、一週間くらいしてその客から「同ブランド同年代の他のアコギと比べて弾いたら、どうにも購入したアコギだけ音に大きな違和感がある。個体差があるのは十分承知しているが、それにしても、だ。疑っている訳じゃないが、年代を調べてほしい。」と電話があった。アコギの年代を調べる方法はボディの一部を削り、溶液を垂らし、専用の機械で木材を調べる。年代検査の作業は修理メンテナンスが得意な妻にお願いした。妊娠中の妻はもうすぐ産休に入る予定だ。体に気を配りながら、ボディを削る作業を始めて直ぐにあることに気づいた。


妻「このアコギ、本体に血みたいなのが付いてて、それを隠すように塗装されてる。」

店長「ええ?血!?気味悪いイタズラだな~。もしかして安物ブランドのギターを加工した偽物だったり?」

妻「本物の血かどうか調べてみるね。木材の種類と年代も。」


詳しい検査の結果「ギター自体は本物の、その年代の高級品」「ギター本体に血液がべっとり付着していて、その上から塗装されている」という事がわかった。

後日、お客さんに血のことは伝えず「安物を加工した偽物でした」と謝罪し返品処理をした。返ってきたギターは、当然もう売り物にはならない。

日本の警察に一度連絡するべきなのか?と迷いながらギターケースに仕舞う。その際、ケース内に古い英字新聞が入っている事に気づいた。このギターを売ったアメリカ人の地元の新聞と思われる。


店長「すごい!50年前の新聞記事だ。60年代といえばイギリスのビートルズかな。アメリカは、、、ええとビーチボーイズとジミヘンと〜。」


60年代ミュージックに思いを馳せながら、50年前の記事を眺めた。

「ジョンFケネディを殺した黒幕は?」「キング牧師の演説に民衆がおしかける!」

歴史の教科書に載るようなビッグネームが連なる紙面の、とある小さな見出し記事に目がとまった。


店長「Killed …Baby…Guitar」


50年前のこの事件は「とある男性が、他の男を身籠った妻に腹をたて、ギターで胎児もろとも叩き殺した。警察が現場に着くと酒を飲みながら血まみれのギターを弾いていた。」という内容だった。


店長「まさか、、、このギターじゃないよな?」


殺人事件に使われた凶器を、自分が持っている。

薄気味悪い感覚が背筋を通り抜け、すぐに「いや、そんなわけはない」と苦笑いした。

その時、妊娠中の妻が産気づいたとの電話が病院からあった。だいぶ予定日よりも早い。Aに店を任せて急いで病院へ向かう。病室へ入ると妻は笑っていた。


妻「あなた。二人のかわいい子よ。お名前何にしましょうかね〜。珍しいアルビノちゃんなんですって!白い肌が綺麗だわ!」


子どもは流産だった。看護師によれば流産したと伝えても、容器に入った我が子をいつまでも抱きしめ、語りかけ続けているという。数時間後、話し疲れた妻が寝付いた。


看護師「彼女も辛い思いをして本当に残念だけど、今のうちに別の場所へ移しますね?」

店長「・・・はい。目が覚めたら妻には、何度でも何度でも僕が伝えます。」


看護師が、固く握りしめた妻の腕から容器を取り外した。妊娠28週を過ぎていたので、だいぶヒトの形が出来ている。真っ白い肌、金色の髪、真っ青な目は、まるで白人の様だった。

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