月虹
深川夏眠
月虹(げっこう)
ベンチに座って待っていると、バスがやって来た。初めて見る車体で、会社名にも行き先にも心当たりはない。兄は黙ってやり過ごそうとしたが、妹はパッと立ち上がった。後方のドアが開いて、紺地の制服を着た車掌が一礼した。美しい猫と少年の掛け合わせのようだが、出て来た言葉は人間のそれで、
「奥のお席へどうぞ」
とまどう兄をよそに、妹は蝦蟇口から金貨を二枚出して車掌に渡した。いや、金貨を模した包み紙の、メダルを
着席すると、前の椅子の背凭れのポケットにチラシが入っていた。
この車両は月虹の宵のみ
循環ルートを運行します。
ややあって、車掌に促され、梯子を上ってサンルーフから身を乗り出した。見上げると、
【了】
◆ 初出:note(2015年)退会済
*縦書き版は
Romancer『月と吸血鬼の
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116522&post_type=rmcposts
**参考:Romancer版『珍味佳肴』収録「月虹」圧縮バージョン
https://romancer.voyager.co.jp/?p=20414&post_type=epmbooks
月虹 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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