…足りねぇ!

「わっ!?どうしたんですかシキ君!?」


 思わず叫んでしまった。


「っと…ごめんなさいジェーンさん、びっくりさせちゃって。」


「い、いえ…大丈夫ですけど…。どうしたんですか?」


「…料理の材料が足りません。」


「あぁ、なるほど…。思えば、最近買い出しには行ってなかったですね。」


 そう、最近買い物に行っていなかったのだ。

 最近どこか遠い所あるキャンプ場の友人に教えてもらったグラタンのレシピがあって、ちょうど試したいと思った時。

 ついでに言うと、今考えている改造パーツ制作の気分転換をしようと思った時でもある。

 いざ作ろうと思って冷蔵庫を開けると、必要な野菜も牛乳も足りやしない。

 なにか別の料理を作ろうにも、今ある材料では大したものは作れない。

 思わず叫んでしまうほどには不服…だが。


「ジェーンさん、買い物行きましょう。」


「はいっ。」


 たまには、俺から誘うのも悪くないだろう。

 いっちょ買い出しと洒落こもうじゃないか。



 …



「…どう、ですか?」


「似合ってますよ。」


「えへへ…。」


 無難な服装を選んだ俺に対し、ジェーンさんは少しおしゃれをしている。

 …似合っている。

 かわいい。

 正直抱きしめてやりたいが昼ご飯が遅くなりすぎるのも避けたい。


「…さ、行きましょうか。」


「はいっ。」


 靴を履いて、外に出る。

 今日は休日、時間は午前。

 気だるい日差しが暑く降り注いでいる。


「…♪」


 そんな時でも、左手を握って笑顔の彼女がいればいくらでも歩ける気がしてくる。

 不思議な事だけど、悪くない。


「じゃ、いつものスーパーでいいですかね?」


「どこでもいいですよ、シキ君さえいれば♪」


 …別のベクトルで俺の体も熱くなってしまうような一言が、とても嬉しい。

 かわいい、やっぱり俺の嫁は最高だ。



 …



「…おっ、ちょうど安くなってますね。」


「ほうれん草ですか。いいですね…。」


 特に何事も無く店に到着して、外の暑さを吹き飛ばす冷房を受けながら商品を選ぶ。

 今日作りたいと言っていたグラタン以外にも何か作れる材料を買っておこう。

 それと、家で保存できる野菜とかの食材も少し多めに。


「ふふ、随分たくさん買うんですね?」


「今日みたいになると、食べるのが遅くなっちゃうので。」


「それもそうですね…。」


 そう、今日はいつもより多く商品をカートに入れている。

 とはいっても、ここで肉類が買えるわけがないが。


「…。」


「お魚、買いますか?」


「えへへ、シキ君の魚料理美味しいんですもん。」


 まったく嬉しい事ばかり言ってくれる。

 今日はいい日だな。

 そんなことを思いながら、パックに入れられた魚をカートに入れた。


「牛乳…乳製品も買っておきましょうか。」


「身長も伸びますしね。」


「…ジェーンさん、ヒトはもう伸びないんですよ…。」


「…ごめんなさい。」


 …べつに。

 ていしんちょうでも。

 いいし。

 きにしてないし。


 …きにしてないし。


「…ん。」


 とか気にしてる内に、カップ麺を発見した。

 いくつか食べたし、今日の内に買っておこう。


「できれば、いっぱい一緒にご飯食べたいですね…。」


「そう、ですね…。」


 俺もジェーンさんもカップ麺を食べる機会はあるが、それは二人が揃っていないときのみ。

 できれば、二人一緒に揃って料理を作って食べたい。


「…今日は一緒に食べましょうね。」


「はい。」


 だからこそ、こういう時には一緒に…そう思っているんだ。


「…さて、何か欲しいものはありますか?」


「私は特に、大丈夫です。」


「じゃ、会計しちゃいましょうか。」


「はい。」


 今日はセルフレジで会計をする。

 ちゃんとエコバッグを持ってきているから、それをセットしてバーコードを読み取っていく。

 値段が表示され、それが積み重なって、大きな額へなっていく。


「…わぁ。」


「ちょっと買いすぎましたかね。」


 …表示された値段の山を見上げて、今日はけっこう買ってしまった。

 少し出費が嵩むが、まぁ問題ないか…。


「…さて、帰りましょうか。」


「はい。」


 いつになく大荷物だ。

 少し大変だが、頑張ろう。



 …



「はー、あっつい…。」


「お疲れ様です。大丈夫ですか?」


「…はい、大丈夫です。」


 さっきより高く昇った陽は、気だるくはないが厳しい光を浴びせてきていた。

 とにかく暑い。

 まったく勘弁してほしい。


「…はぁ、とりあえず買ってきたもの整理して…作りますかね。」


「私も手伝いますよ。」


「…ありがとうございます。」


 見つめあって、笑いあった。

 これだけで十分だ。


 この後、幾分か遅い午後二時頃、冷めきらないグラタンを食べて二人で笑いあった。

 今日は幸せだった。

 またこんな日があっても、悪くないだろう。

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[三次創作]楽園の一日 えぬけー @NKDefender

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