4-10 社長解任動議、否決www
「遠慮なくご起立を。ほれ」
思わず煽っちゃったよ。後で吉野さんに叱られたけどさ。でもまあ俺も、煙幕を張りまくる副社長に騙されてた。ここまで散々コケにされてきたんだから、少しくらい復讐してもいいだろ。
現社長解任動議だ。勢いよく立ち上がったのはもちろん、鉾田副社長と永野常務。俺が社外取締役を拉致してデリバリーしてきたから、票読みでは六対六のイーブン。あと四名ほど、立ち上がるはずだ。
「……」
「……」
「……」
だが、誰も立ち上がらない。反社長派と目される連中は、互いにこすっからく顔を見合わせている。
「あれえ、おかしいなあ……」
わざとらしく俺は、首を捻ってみせた。
「お仲間四人、腰が抜けたようですよ、鉾田副社長」
「立てっ」
焦ったのか、永野常務が大声を上げた。
「坂井、栃木、今さら怖気づいたのか」
坂井はシステム開発・外販室担当。俺のダイヤ疑惑を公にした野郎だけに、反社長派だと、俺も社長も想定していた。栃木は中立派だったはずの、途上国権益探査室長。こいつは欲に目が眩んで反社長に転んだと、俺達は見なしていた。
「いえ私は別に……」
「そもそも社長候補は永野くんと聞いていたし。副社長が我が社の禁を破って社長候補に出てくるなら、賛成など……」
永野に睨まれてふたりとも、視線を逸らしている。
「いい答え合わせだよなー、永野。裏切り者炙り出せて」
俺が混ぜっ返すと、会議室を沈黙が支配した。呼び捨てでももはや、誰も注意してこんな。
「あとふたり。永野派を明言していたオルタナティブ資源開発事業部長、棚木。それに、三木本Iリサーチ社から俺と吉野さんを叩き出す陰謀に加担していた、貴金属・レアメタル事業部事業部長、福田。どうせお前らだろ」
しーん。
「腹くくって、反乱同志のために立ったらどうすか」
しーん。俯いたまま、ふたりも黙っている。
「あんたら四人、マジでクズだな。正義があったかは別にして、土方歳三だって最後まで、新政府に楯突いた。負け戦でも配下を庇い、自ら最前線に立って、北海道で戦死した。反乱の志って、そういうものじゃないんかよ」
誰も返事をしない。
「ええ。恥を知れやカス。鉾田と永野はクズだが、あんたらはそれ以下。戦死する覚悟もないのに勝馬に乗って利権を貪る、最低の寄生虫だ。そもそも──」
「もういいじゃないか、平シニアフェロー」
会長が止めに入ってきた。苦笑いしている。
「君の気持ちはわかるが、幕末の大物と比べるのは気の毒だ。ただのネズミなんだからな。それに……」
両手を広げてみせた。
「社長解任動議は否定された。二対十と、圧倒的だ。我々の勝ち。目的は達せられたのだ。追撃の演説など、エネルギーの無駄。我々は利益命の商社マンだろ、平くん。余計なメンタルコストを払うなど、ばからしい」
「私の解任動議は否決された」
社長が立ち上がった。
「第二の動議はなんだったかな。たしか……鉾田くんを社長にとか……。可決すれば社長ふたりになってしまうが……」
面白そうな瞳で、永野を見つめる。
「永野くん。念のため、採決してみるかね」
「……い……え」
悔しそうに、俯いたままだ。
「そうかそうか」
大げさに頷くと一転、社長は厳しい顔を作ってみせた。
「近い内に……また、私が皆を招集する。取締役の転任や退任、新規就任絡みの、臨時取締役会議をな」
その言葉に反社長派が、びくっと体を震わせた。
「もちろんその前に、鉾田くんと永野くんには退任してもらうが。今日中に」
「……くそっ」
鉾田が吠えた。
「認めんぞ、柏木。だいたいあんたはワンマンで──」
「社長ワンマンは、我が社の伝統だ」
あっさりいなされてて笑う。
「平シニアフェロー」
「なんすか、社長」
「臨時取締役会の閉会を宣言したまえ。この会議は、君が主役だ」
「喜んでーっ!」
静まり返った役員会議室に、俺の声が響いた。
「臨時取締役会、閉会っ。取締役の方々は、出口からご退出下さい」
扉前には、俺のパーティーが陣取っている。
「ああそうだ。反社長派の方々は、俺の仲間に殺されないように気を付けてくださいね。食い殺されたり、剣で首を刎ねられないように」
「それはいいな」
腰の短剣を、タマが抜いた。
「悪党はまずそうだから、食い殺しはせん。首を取るだけにしておこう」
刃を舐める。猫目で皆を睨みつけながら。
「ひいーっ!」
腰を抜かした永野がまた、小便を漏らした。
●次話から新章「悪党のゴミ掃除(仮題)」に入ります。お楽しみにー!
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