4 無責任野郎「平均(たいらひとし)」、本領発揮して大手町で大暴れw

4-1 決戦のヒエログリフ

「さて……」


 リビングで、俺はみんなを見回した。俺のチーム全員、タマゴ亭さんまで揃っている。


「反社長派が強硬手段に出た。社外取締役が脱落し、このままでは臨時取締役会を、反社長派に掌握される。六対五。間違いない」


 皆、無言で俺の言葉を待っている。呑気に朝飯を食う時間はない。シリアルや軽食で軽く済ませ、今後の行動に向けてのエネルギーは補充してある。


「俺達は社長解任を防ぐ。なんとしても。そのためにこれから行動に移る」


 ひと息置くと続ける。


「みんなには、厳しい選択を迫ることになる。最悪、俺達はこの世界に居られなくなる」

「大丈夫だよ、ご主人様」

「向こうがあるもの」

「平ボスさえいてくれたら、地獄でも構わん」

「我が魔界よりはマシであろう」

「久々に暴れられると聞いて、余もわくわくしておるわ」


 皆、口々に賛同してくれる。


「具体的にはどう動くのだ、婿殿」

「作戦は立案した。俺達はいくつかの班に分かれる。まず戦闘班。リーダーはタマ」

「任せろ、平ボス」

「同班に、エンリル、ケルクス、エリーナ。戦闘班には、大手町で暴れてもらう」

「おうよ」

「はい、平さん」

「何人殺せばいいのじゃ、平よ」

「いや、殺すな。暴れるだけでいい」

「かえって難しいのう」


 呵呵かかと笑っている。


「次、陽動班。リーダーはタマゴ亭さん」

「うん。わかった」

「同班に、サタンとトリムを配備する」

「わかったー」

「殺すのか」

「いや。お前は幼女のくせに物騒で困るわ」


 頭を撫でてやった。いつもなら「子供扱いするなムキーッ」とか怒るんだが、今朝は静かだな。それだけヤバい朝だってわかってるんだろう。


「個別の作戦は最後に伝達する。次に情報班。吉野さん、お願いします」

「任せて。私が取締役会に出席するのね」

「そういうことです」


 さすが察しがいい。


「マリリン博士の大発明『お見張りくん』眼鏡を掛けて下さい。俺に状況が伝わるよう」

「いいわね。この眼鏡、かわいいし。それに平くん、これを私が掛けると興奮して、ベッドで──」

「そ、その話はまた今度」


 タマゴ亭さんがにやにやしてる。吉野さん、天然にも程があるわな。


「最後に潜入班。俺とレナ、キングー、キラリン。この班で、三猫銀行本店に侵入する」

「うわっ楽しみー」


 俺の頭上を、レナがくるくる飛び回った。


間諜かんちょうだね。ボク、一度やってみたかったんだーっ」

「よし。各班の配置はこうだ。戦闘班、大手町和田倉噴水公園。戦闘開始後、俺の司令を待ち、徐々に東京駅丸の内南口に向けて進軍」

「うむ」

「本格的じゃのう」

「陽動班、首都高神田橋入口近辺に展開。大手町からの社畜集結を担う」

「わかった」

「陽動班の行動が最初だ。まず人流を引き寄せ、戦闘班の行動での怪我人発生を最大限防ぐ」

「さすがご主人様。頭いいし優しいねー」


 俺の頭の上に舞い降りたレナが、あぐらを組んだ。


「侵入班。大手町、三猫銀行本店前で待機。陽動班と戦闘班の補助として周囲を扇動後、本店に侵入する。……キラリン、周辺の詳細地図、それに銀行本店内部の構造を入手、頭に叩き込んでおけ」

「任せてーっ」

「今は……」


 リビングの時計で時間を確認した。


「今はマルナナサンハチ。作戦会議終了後すぐ、陽動班はキラリンの力でタマゴ亭調理室に跳躍。全ての弁当・惣菜を徴用し、作戦領域に飛ぶ」

「任せて、平さん。うちの両親は、適当に説得するから。なに、今日一日だけ、タマゴ亭の弁当事業は休業にするだけだもん。問題ない」

「引き続き、戦闘班もキラリン跳躍で現場に展開。俺の指示を待て」

「了解」

「潜入班も同様に移動。情報班からの報告を待ち、頃合いを見て各班に指示後、行動を開始する」

「楽しみですね、平さん」

「ああキングー、お前はワイルドカードだ。基本、大丈夫なはずだが、何かあったら現場で暴れてもらう」

「はい。心しておきます」


 表情を引き締めた。


「最後に情報班。……悪いけれども吉野さん、いつもどおり地下鉄で出社して下さい」

「怪しい動きを悟られたくないものね。反社長派にとって、最後に残った不安要素が、私と平くんに決まっているもの」

「そういうことです。……よし。全員、円陣を組め」

「おうっ」


 テーブルをぶん投げ、みんなで肩を組んだ。


「平くん、私やみんなに気合を入れて」


 吉野さんに、優しく促された。


「いいか、俺達は必ず勝つ。いつか負けるかもしれない。でもそれは今日じゃない。俺達は今日、悪党どもの陰謀を粉砕し、悲惨な混乱から三木本商事を救う。それこそ、俺やみんなが生きてきたという証、この世界に遺す、俺達の生き様だ。底辺社畜の意地、そして異世界住民の心意気を、見せてやろうじゃないかっ!」


 うおーっという咆哮が、リビングに響いた。全員の、魂の叫びが。

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