1-2 嫁バレのリスクwww
「お前らがいると、実戦訓練にもなんにもならんな」
休憩時間に、栗原が苦笑いした。
「なんせどんな敵でも瞬殺だ。平が戦術を命じるまでもないじゃないか。全員勝手に動いて、それでいて息はぴったりとか」
「それにちゃんと、敵が魔道士系か物理系か、あるいはアンデッドかという状況に応じての話だ。……つくづく驚いた」
山本は、溜息をついた。山本使い魔のシーフ二体なんか、俺達が怖いのか、山本の陰で体を縮めてるからな。栗原使い魔のレオは例によって、タマの前で腹見せて転がり、ごろごろ言ってるわ。
「雑魚戦だからな。ボス戦クラスだとこうは行かない」
「それにここは雑魚戦も雑魚戦。平ボスが進む地帯の雑魚とは、レベルが二桁は違うし」
なんということもなしと、タマはレオの腹を撫でている。
「お前ら、そんな場所を進んでるのか」
栗原が目を見開く。
「それに、そのおこちゃま……」
サタンを見つめる山本の表情に、恐怖が浮かんだ。
「とてつもない魔法を繰り出してたな。あんなの、敵中ボス魔道士の魔法ですら、見たことないぞ」
「だから言ったではないか」
ほぼ真っ平らの胸を、サタンは張った。
「大魔王サタン様の技の前にひれ伏すがよい」
「まあ、その冗談は置いておいて」
「ムキーッ」
あら、そっちは信じないのね。軽くスルーされて、サタンがまた地団駄踏んでら。草。
「平ぁ……」
涙目で俺に抱き着いてきた。
「こうなったからには早く、あたしのことも嫁にしろ。吉野やエンリルと同格に。そうすればもう、こんな雑魚に馬鹿にされることもない」
「よしよし……」
流れ上、仕方ないんで頭撫でてやったわ。
「お前が大きくなったらな」
「ムキーッ」
「……仕方ないだろ」
耳元に囁いてやる。
「子供の戯言ってことにしとかないと、吉野さんやみんなが俺の嫁だってバレるじゃんか。使い魔は百歩譲るとしても、上司だった吉野さんとの情事は、今はまだ会社に知られたくない」
「なら、あたしを嫁にしてくれるんだな」ひそひそ
「いいのか、その体だと多分、最初はとてつもなく痛いぞ」ひそひそ
「こ、怖くなんかないわい。やり方は……その……レナに教えてもらったし」ひそひそ
レナの奴、サキュバスだからって、エロ知識をやたらとみんなに放り込むなっての。
「その前にお前、俺のこと好きなのかよ」ひそひそ
「それは……その……」
サタンは、耳まで真っ赤になった。
「好き……」
そうなのか……。
「自分のことより好き。あたしの命より好き。代償として地獄の業火に焼かれるとしても好き」ひそひそ
「お前はサタンだろ。地獄の業火とか、シャワー浴びるくらいに日常だろ」ひそひそ
「それもそうか」
「本当に俺が好きなんだな。誓えるか」
黙ったまま、サタンは頷いた。真剣な瞳だ。
「ならいずれ、その気持ちには応えよう。俺もお前のことが好きだし」
「本当か!?」
ひそひそも忘れ、サタンは大声を上げた。
「ああ。本当だ」
「平ぁ……」
いきなり唇を奪ってきた。俺の頭を抱えるようにして。
「……」
「……」
横目で見ると、栗原と山本、それにシーフ二体が口をあんぐり開けている。やばっ。あーちなみに俺のチームは、誰ひとり気にしていない。俺が誰かといちゃつくのなんか、当たり前の日常だからな。
にしても、なんとか偽装の網を張ったのに、あっさりぶち破ってくれるな、サタンの奴。まあ……それだけ俺への気持ちが高まってたんだろうけどさ。
「まあ……なんだ」
俺とサタンの長いキスが終わると、栗原は、ほっと息を吐いた。
「相手は異世界の存在だから、違法とは言えないが……」
真面目な瞳だ。まあ異世界に日本の法律が適用されないのは、政府によってはっきり公言されてるしな。でないとそもそもこっちでの戦闘が許可されている、根拠すらなくなるし。
「あんまりヘンなところにハマるなよ、平」
わかってるよ、栗原。……てかもう遅いわ。こっちの世界での、自己責任下の自由奔放に俺、心から引き寄せられてるからな。
俺はいずれ現実を捨てる。それはもう、自分でもわかっていた。
今の社長問題が解決したら、多分そうなる。現実世界に対する俺の義理が消えるから。そうして吉野さんや嫁を守りながら、こっちで楽しくサボりまくりの人生を送るんだ。命ある限り。
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