5-6 マリリン博士の「採取」w

「これがサラマンダーかあ……」


 四メートルの縞模様、毒々しいモンスターを前に、マリリン博士はうっとりと溜息を漏らした。


 ドラゴニュートの隠れ里、背後を取り囲む「神秘の洞窟」、その地下一階フロアに舞い戻ったときのことだ。戦闘のあるダンジョンというのに、いつもの白衣姿だ。死ぬのが恐ろしくないんかね、あれ。


「ねえあんた」


 怖がりもせず、ずけずけ近づく。


「DNA採取させてよ。精液で」

「はあ?」


 さすがのサラマンダーも、首を捻ってる。そりゃ精液はともかく、DNAなんて意味不明だろうし。そもそもこの子、雄か雌かも俺は知らんけどな。


「面倒だ。これでいいや」


 止める間もなく、首の鱗を一枚、瞬時にむしり取る。


「痛っ!」


 凶悪モンスターが、痛みに飛び上がってて笑ったわ。


「なにをする。この……小娘がっ」


 かーっと口を開いて威嚇する。真っ赤な口内が見えた。俺、あそこに飲まれたんだよな。死なんでよかったわ。


「よし……と」


 用意してきた採取瓶に鱗を収めると、背中の「博士バッグ」に収める。


「協力、感謝するね」

「なにが協力だ。勝手にむしっておいて腹の立つ」


 激、怒ってんな。


「ドラゴンロードの仲間でなかったら、食い殺しておるところだ」

「サラマンダーも形無しだな」


 ドラゴニュートの長、ドライグは呆れ返った顔だ。


「なにのんきなこと言ってんの。あんたの生体標本ももらうから」

「は?」

「平くんの嫁には手を出せないからね。怒られちゃう。でも……」


 アレ博士の瞳が輝いた。


「でも、そうじゃないのは全部、あたしの実験動物だから」

「いったいなにを――」

「ほらほら」


 どういう技か知らんが、秒でドライグの服を足元まで引き下ろすと、尻に手を突っ込んだ。


「アッ――!」


           ●


「ふう……。あんたなかなか良かったわよ」


 ドライグの前立腺液を収めた試験管を、博士は振っている。劣化しないよう、固定液と混ぜているんだってさ。


「うう……」


 下半身裸で女の子座りしたまま、ドライグはめそめそ泣いている。いやこれ普通に「事案」だろ。同じく前立腺液を抜かれた仲間として、同情するわ。俺の仲間は博士のアレぶりをよく知っているので、あまり動揺してはいない。でもサラマンダーは口をあんぐり開けている。


「これは……最強のモンスターかも」


 思わずといった様子で呟く。


「そうよのう……」


 エンリルは笑っている。


「お前も鱗一枚で済んで、ラッキーだったことよ」

「そうだのう……」

「さあ、前戯は済んだ。いよいよ本番よっ」


 博士の宣言に、ドライグは飛び上がった。ロボットのようにぎくしゃくと、慌てて服を引き上げる。


「ああ勘違いしないで、ドライグくん」


 例の弁当箱タブレット「まっくらくん」を、博士が振りかざした。動体センサーとか言い張ってる奴。


「本番ってのはね、もちろんこの後の第二フロアのことよ。さあ行くよ、平くん」

「はあ……」


 意気軒昂だなあ……マリリン博士。マジ戦闘怖くないんだろうな、これ。


「第二フロアは、モンスターてんこ盛りなんでしょ、話だと」

「そうだ」


 タマが頷いた。


「あたしの嗅覚に間違いはない」

「よーしっ!」


「まっくらくん」のスイッチを、博士は入れた。ディスプレイの画面が、ぼんやり明るくなる。


「モンスター、来い来いっ。みーんな、サンプル採取してあげるから❤」


 いやこいつ、次から次へと前立腺液だの謎分泌物だの抜きまくるつもりかよ。コワッ……。


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