5-5 第二階層は暗闇でヤバし>からの前立腺


「ここが次のフロアか……」


 翌朝、段取りどおりにドラゴニュートの里でドライグとグローアを拾うと、「不思議なダンジョン」地下一階に。サラマンダーに挨拶してからつるつる滑る階段を下りて、ここ地下二階に到達したところだ。


「真っ暗だね、ご主人様」


 俺の胸から飛び出したレナが頭上で周囲を窺っているようだが、それすら見えない。真っ暗闇だ。


「マジックトーチも消えちゃったわ。……どうしてかしら」


 不安そうな吉野さんの声が聞こえてくるが、姿は見えない。手を握られたから、それが吉野さんだろう。


「タマ、お前の猫目で見えるか」

「いや平ボス。皆目だ。……こんな闇は経験したことがない。だが……」


 しばらく置いて、タマの声が聞こえた。


「だが気配からして、どうやらここも大部屋だ」

「一階と同じか」

「では、余がドラゴンの杖を振りかざして、炎を噴くか。それで周囲は見えるであろう」


 エンリルだな。


「止めておいたほうがいい」


 タマが断言した。


「匂いがヤバい。どうやら奥に大量のモンスターが隠れている。炎でこちらの場所が向こうにバレるし、刺激することになる」

「闇の眷属か……」


 真っ暗闇で集団戦に入るのは、得策ではない。いくら炎があるとはいえ、敵の全貌もまだわかっていない。


「どうする、平くん」

「そうですね吉野さん。……このまま戦うのはリスクが高すぎると思います」

「婿殿の言うとおりだな」


 魂を吸い取られるような暗闇でも、ケルクスは飄々としている。


「ただ……どうするかだが……」

「ねえ、お兄ちゃん」

「わかってる。今、それを考えていた」


 ……やっぱ、そういうことになるよな。


 闇に隠れて、俺は溜息を漏らした。嫌だが仕方ないか……。


「一度地上に戻ろう。それから現実に帰還する」

「新富町に行くのね」

「そういうことです、吉野さん」

「ならおみやげに、平くんのアレ、差し出さないとね」くすくす


 いや冗談でも言わないで下さい。なんだかもうアレ博士のヘンな行為になじんじゃってるじゃないすか、吉野さん。


          ●


 頼み事を聞いてくれる代償として、例によってアレなことをされたんだが、いつもの精子採取じゃなかった。そっちはもう充分なんだってさ。今回は前立腺液を要求されたわ。マジ、マリリン・ガヌー・ヨシダ博士狂ってる……。


「前立腺って……歳取るとやばくなる奴っすよね」


 下半身を裸に剥かれた俺は、例によって診察台に固定されている。もう慣れたわクソっ……。


「そうそう。平くんは若いから全然問題ないと思うけど」

「ねえ平くん、前立腺ってなあに」

「それはですね吉野さん……ええと……」


 男だけにある器官というのは知ってる。とある特殊なプレイに使うことも。でも生物学・医学的な意味は覚えてない……というか誰も教えてくれないよな、そんなん。


「前立腺はね、内分泌に関わる男性器官で、まあざっくり言えば生殖器の一種。前立腺液を生産するのよ」


 ラテックスグローブを右手に装着しながら、マリリン博士がぺらぺらと解説する。


「前立腺液はね、精子の活動を支援するの。元気にしたりとか」

「じゃあ、その液体で平くんの夜、元気満タンになるんですね」

「まあね。……なんかちょっと違う気がするけど」

「精子が元気になると……その……」


 自分のお腹を撫でている。


「私も孕む可能性、増えますよね」


 瞳がきらきら輝いている。


「可能性はね」


 博士は上の空だ。新富町訪問組は、あといつものレナとキラリンだけ。ふたりとも、診察台で開脚している俺を、興味深そうに見つめている。


「どうやって採取するんですか。前立腺液って」

「それはね吉野さん……」


 中指にジェルを塗った博士が、俺にのしかかってきた。


「こうやるのよ」

「アッ――!」


          ●


「はあ……はあ……」

「よし、終わった」


 医療用ラテックスグローブを、マリリン博士は右手からパチっと外した。そのまま医療廃棄物入れに放り込む。


「平くん、よく我慢したね。偉い偉い」

「うう……はあ……」


 俺はもう虫の息だ。


「にしてもあれだねー。資料には書いてあったけど、本当に前立腺刺激すると快感凄いんだね」


 前立腺液を入れた試験管をパラフィンフィルムで封印すると、俺の腹に散った精液を、いそいそとタオルで拭き始めた。


「精液までこんなに出ちゃうとは思わなかったよ。どう、良かった? 平くん」

「いいわけないだろ。ケツが痛いわ。俺の性癖にヘンな扉が開いたら、どうしてくれるんだよ」

「ぐふっ。大丈夫。そのときは責任取って、あたしが相手したげるからさ。ナースプレイでいいよね」


 白衣の裾をぴらぴらめくって、制服然としたプリーツスカートを見せつけてきた。誰がこんな中坊みたいな奴に興奮するかっての。


「ああすればいいのかあ……」


 吉野さんは、伸ばした中指を、くねくね曲げてみている。嫌な予感しかしない。


「こうやって、直腸内部から前立腺を刺激すればいいんですね、博士」

「そうそう」

「いややめて下さい、吉野さん。俺、遠慮します」

「あら、平くん気持ちよさそうだったわよ。私、ちゃんとしてあげるからね」

「へへーっ、ご主人様、よかったね」


 レナの野郎、にやにやしてやがる。


「吉野さん、前立腺マッサージしてくれるみたいだよ」

「お前らふざくんな。俺はノーマルだわ」


 博士は肩をすくめてみせた。


「まあまあ。ちゃんと頼みは聞いてあげるからさ。要するに明かりすら起動しないダンジョンで敵の動向を探ればいいんでしょ」

「そうです。マジ頼みますよ。このケツの痛み、俺、忘れませんからね」

「そういうときはこれよ」


 なんか弁当箱みたいに分厚いタブレットかなんかを、博士は取り上げた。


「動体センサー、『まっくらくん』だよ」



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