5 幻の変動ダンジョン攻略

5-1 謎の洞窟

「ここですか……洞窟って」


 案内された山脈。回り込んで凹状になった北側の陰。そこから壁のように切り立つ崖の下で、吉野さんが怖怖と穴を覗き込んだ。


 埴輪の口のように、ぽっかりと穴が開いている。北側に回り込んだ崖の陰なので陽が射さず、暗くてじめじめしけっている。穴自体は背を屈めれば入れる程度の小ささだ。


「中は広くなっています」


 ドライグが説明した。


「相当に広いのですが、なにしろ毎回構造も仕掛けも変わるので……」

「地図も作れないのです」


 グローアが付け加える。


「そりゃあな。毎回変わるんじゃ、地図に意味ないし」

「その最深部まで行くとして、どのくらいの時間が掛かるか、わかっているのか」


 ケルクスに聞かれると、ドライグは唸った。


「実は最深部まで辿り着けたドラゴニュートはいないのだ。踏破が厳しく皆、途中で逃げ帰るので。ただ……途中まででも、数日は掛かります。真っ暗な洞窟に入るので、それなりの装備が必要でしょう」

「……平ボス」


 洞窟に頭を入れて探っていたタマが、俺を振り返る。


「嫌な香りだ。モンスターも多そうだぞ」

「そうか……」

「実際、内部は危険です。入ったきり戻ってこなかった人もいます」


 ドラームは、悲しげに眉を寄せた。


「どうしますか平さん。準備に数日掛けたほうがいいとは思いますが、試しに少しだけでも入ってみますか」

「いや……」


 高い崖の上、かろうじて見えている空を、俺は見上げた。


「もう午後だ。それに戦略は組んでおきたい。しばらく準備に費やそう」

「では里にお泊まり下さい」


 ドライグは俺の仲間を見回した。


「なんとか……十人入れるよう、家を用意しますので」


 なんせ閉鎖された隠れ里だ。宿なんかあるはずはない。


「いや……俺達は一度家に帰る」

「えっ……」


 ドライグとドラームは顔を見合わせた。


「家って……」

「まさかまた船で戻られるのですか。時間が……」

「ああ、違う違う。俺達は別次元に拠点を持っているんだ」

「そうです。毎日マンションに戻れるので、平くんにベッドで抱き締めてもらえるんですよ」


 嬉しそうに、吉野さんが微笑んだ。


「平くんったら、私の胸に――」

「そういうわけです」


 俺は大声を上げた。もう吉野さんのこのパターンに慣れたな、俺。


「とにかく一度帰ります。それで少し考えさせて下さい。そちらから――ドラゴニュート側から洞窟に同行してくれる人はいますか」

「それは……」


 集まったドラゴニュートがどよめいた。


「私が行きます」


 ドライグが一歩前に出た。


「里の危機だ。私が行くべきでしょう」

「私も行きます」


 と、ドラーム。


「いやドラーム。お前は残れ。万一のときは、私に代わり、村をまとめるのだ」


 ドライグがドラームを説得した。


「もちろん私も同行します」


 グローアが申し出る。


「ありがとう。今日はこれで俺達は戻る。いつから始めるかは別にして、里に毎日顔だけは出す。どう進めるか、少しずつ詰めていこう」

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