3-6 謎の思春期を迎えた俺w

「良かった……平くん」


 マンションのダイニングルームで、吉野さんは俺に抱き着いたまま、離れようとしなかった。涙がこぼれるのを、隠しもしない。


「吉野さんやみんなのおかげですよ」

「平……くん」


 俺の胸に顔を埋めると、そのまま泣いている。


「ご主人様、良かったね」

「ああレナ。お前にも心配かけたな」


 多数あった難破船は、宝の山だった。なにしろ交易途中で海藻に絡め取られた船がほとんどだからな。船内から大量の宝物をサルベージした俺達は、それをあらかた持ち帰った。とにかく多種多様、しかも大量なので、王都の王立図書館に持ち込み、エロじじい……じゃないか、ヴェーダ館長に鑑定を頼んでいる。


 特に助かったのは、宝物の中に延寿の珠があったことだ。しかもふたつも。これ幸いと持ち帰り、今、俺の連続延寿に成功したところだ。


「ご主人様、もう思春期男子も同然だね」


 手を口に当てて、レナはくすくす笑っている。


「ああ。計算上はそうなるな」

「もう精力全盛期だよ。ボクと契約して高まった分も考えると、毎晩五人相手するしかないねっ」


 ボク、吉野さん、タマ、ケルクス、トリム……と、レナは指を折って数えた。


「そうか、トリムはまだ無理だね。珠のまんまだし。……この際、キラリンかキングーにも頼む?」

「お前は……」

「だってそうじゃん。それでないと逆に、ボクや吉野さんの体がもたないよ。今だって明け方まで解放してくれないから、寝不足で困ってるっていうのに」


 全員の前で公言すんな。エリーナやサタンなど、嫁じゃない仲間だっているってのに。まあ、嫁候補に挙げられたキラリンは大喜びだったけどな。


「とにかく、今回ボスは、十二年と十八年の寿命を回復した。もう最盛期の雄の匂いがする。この香りに毎日晒されていては、あたしも近々、二回目の発情を迎えるだろう」


 タマに淡々と告げられ、どきっとした。発情したタマは、ものすごく色っぽくなるし感じやすく、しかもかわいい態度になるからな。正直、一晩中……というか有給取って三日三晩かわいがりまくると思うわ、俺。


「婿殿が失った寿命は五十年だったな」


 ケルクスが続ける。


「これまで三回の延寿で約八年、六年、二十一年と、だいたい三十五年回復した。そして今回、三十年。合計で六十五年回復したことになる。つまり寿命を失う前より、十五歳若返ったわけか……」


 感心したように俺を見つめる。


「たしかに計算上、十五歳にもなってはおらんな」

「これでお兄ちゃん、長生きになるねっ」


 キラリンも嬉しそうだ。


「見た目はそれほど若くなってはいないですね」


 感心したように、キングーが首を傾げている。


「ヒューマン種族の年齢なら、僕と同じくらいの外見になりそうなものですが」


 キングー、ウイーン少年合唱団みたいな見た目だからな。アンドロギュノスだけに最初の頃は中性的だった外見も、俺と暮らし始めて女性化が進んで胸も膨らみ、もう普通にかわいい女子高生くらいになっている。風呂で裸を知っているレナに言わせると、「もうすっかり女の子だから、いつご主人様が誘ってもいいと思うよ。本人もご主人様のこと愛してるし」とのことだ。


「延寿が続いて平くんがこれより若くなると、ちょっと困っちゃうな」


 吉野さんは、拗ねるような仕草をしてみせた。


「だって八歳の男の子同然になったら……その……私のこと愛せなくなりそうだし」

「授乳プレイならできるよ。そもそも授乳プレイは――」

「キラリン、脳内検索止めとけ」


 これ以上、エロ知識披露されてたまるか。


「大丈夫だよ、吉野さん。見かけはもう変わらない。これからの延寿は、単に寿命が延びるだけだよ」


 レナが太鼓判を押した。


「というのも、延寿というのは不老不死とか子孫繁栄のための技術だからね。生殖可能な若年まで進めるのが中心で、後はボーナスステージみたいなもんだよ」

「なるほど」


 納得だわ。


「まあ、見た目は今のままが俺も助かるわ。社内で違和感持たれても困るしな。それに……」


 それに今後見つけた延寿アイテムは、全員の寿命を平均的に延ばすのに使うと、俺は付け加えた。


「みんなでいつまでも仲良くしていたいからさ。まあ当面は短命種族たるヒューマン、つまり俺と吉野さんの寿命を延ばすことになると思うけど」

「いいことだ」


 タマが頷いた。


「いずれあたしもボスの子を産む。家族や群れと過ごして寿命を全うしたい」


 どきっとすることを口にする。


「私も……」


 吉野さんにじっと見つめられた。


「それはボクも同じだよ」

「レナ、お前妊娠なんかできるのか? 元ピクシープリンセスとはいえ、今はサキュバスだろ」

「ご主人様がね、ボクに子供を産んでほしいと言ってくれれば、次の行為で受精するよ。そこは自由自在なんだ。サキュバスだから」

「体のサイズはどうなんだ」

「わからない」


 首を振った。


「ボクの血が濃ければ多分、ピクシーサイズで生まれる。ご主人様の血が勝てば、人間と同じかな。ボクはほら、等身大にもなれるし」

「なるほど」

「子供の能力は謎だね。どうなるんだろ……」


 俺をちらと見て。


「でも生まれるのは女の子だと思うよ。ボク、サキュバスだし」

「そんなもんか」

「じゃあ早速試そうか、ご主人様。……寝室に行こうよ」

「いや、子供はまだいいかな。まず、トリムを復活させたいんだ」

「だよねー。……なら子供無関係に寝室に行くよ。若返ったご主人様のこと、サキュバスとして知っておきたいし」

「いいわね。みんなで行きましょう、さっそく」


 いや吉野さん、楽しそうに微笑まれても俺、恥ずかしいっす。みんなの前で宣言されるのは。


「平さん……ボクもご一緒してよろしいでしょうか」


 言ってから、キングーは真っ赤になった。


「その……あの……ボクも平さんに……愛してもらいたい」

「いいねー。じゃあお兄ちゃん、あたしも一緒で」

「おお!」


 キングーとキラリンの嫁宣言に、サタンはもう、大喜びだ。


「さすがはあたしの甥っ子甲だわい。モテるのう……」


 にやにやしてやがる。


「キングーにキラリン、ありがとうな」


 傷つけないよう、ふたりの手を握ってやった。


「だけど俺、まずはトリムを復活させたいんだ。ふたりとは……ゆっくり進んでいこうな」


 ふと、ドラゴンロードエンリルの婚姻形態が頭に浮かんだ。あれはまあやむなくといったところだ。仕方ない。


「ええーっケチ」


 ぷくーっ。キラリンの頬が膨らんだ。


「ママとは何度もエッチなことしてるのに」

「えっ……」


 吉野さんが絶句した。


「本当、平くん。マリリン博士と……」

「違いますよ。ただ……俺が薬で眠らせられている間に、何度も精液を抜かれただけです。それだって手で採取されただけで、特にエッチな行為というわけでは……」


 だよな。海藻騒ぎのときに、過去に博士が何度も抜いていることは、吉野さんも知ったはずだし。


「そういえば、博士とは平くんのアレをふたりで飲む約束してたわね。……予定入れないと」


 スマホを取り出すと、吉野さんが指を動かし始めた。


 しまった藪蛇だ。


「もういいだろ。細かなことはおいおい決めよう」


 ケルクスが引き取った。


「明日はあっちに戻り、島で経緯を報告。それからいよいよトリム復活のために、隠者の家を訪問だ。……忙しくなるぞ」

「わかってる」

「だからもう今日は寝よう。婿殿と嫁、若返っての添い寝タイムだ」


 俺の手を取ると、小寝室へとぐいぐい引っ張る。なんだよケルクス。無表情なのに、若返った俺に興味津々じゃん。ダークエルフってのは、むっつり系なんかな。


 小寝室へと消える俺達に、吉野さんやタマ、等身大になったキラリンがわいわい続く。残された仲間は、ダイニングの食器を片し始めた。


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