第六部 「新大陸ドラゴンパンゲア」編

第六部プロローグ

pr-1 夜明け

 マンションの小寝室には、情事後の淀んだ空気が漂っていた。


 横たわる俺に絡むようにして、裸の女が四人、荒い息をついている。汗まみれで。等身大になったレナに吉野さん、それにタマとケルクスも。明け方まで激しく交接を繰り返し、すでにカーテンからは夜明けの太陽が遠慮がちに顔を覗かせている。


「平くん……激しかった」


 裸の胸に、吉野さんがちゅっと唇を着けた。


「それに黙ったままで……怖かった」

「……すみません」

「気が晴れた?」

「……」


 俺は答えなかった。暗い夜が辛すぎる。トリムが居なくなった欠落感で、心が押し潰されそうになるから。四人に頼んで同衾してもらったが、最中はともかく、こうして終わってみると魂の大穴に変化はない。


「ご主人様、泣いちゃダメだよ。トリムだって、そんなご主人様を望んでない」

「泣いてなんかいないさ」


 実際、ちゃんと晩飯だって食べているし、風呂で体だって洗ってる。


「泣いてるよ、心が。ボクわかるもの」

「婿殿、あたしも感じるぞ」

「あたしもだ」


 ケルクスとタマが、俺の体に浮かぶ汗を舐め始めた。


「きれいにしてやろう」


 ふたり両側から舐め続ける。


「トリム……」


 枕元、「トリムの珠」を手に取ると、撫でてみた。


「必ず復活させてやるからな、お前を」

「そうよ平くん、それでいいの」


 吉野さんが、俺の唇に胸を押し付けてきた。


「ほら、吸いなさい。そうして辛さを忘れるの。たとえいっときのことでもいい。人間は、そうやって立ち直っていくのよ」

「吉野さん……」


 口を開けると、胸の先が勝手に入ってきた。俺を癒すように温かな胸の先が。


「平くん。今日も休むの、会社を」

「ええ。仕事する気力が無くて。とてもじゃないけど……。それに……エンリルに呼び出しを受けてるから」


 エンリルに呼び出されるなんて、初めてのことだ。いつもはこっちが呼び出しても、ドラゴンロードのプライドがどうのこうので、なかなか言うこと聞いてくれないのに。


「あら、異世界行くなら出社ってことにすればいいのに」

「なんかそういう気分じゃないんです。今日は、エンリルの用事だけ済ませて帰ります」

「そうね。出社して異世界転送装置のお世話にならなくても、キラリンちゃんの力で異世界に飛べばいいものね」


 よしよしと、胸を吸う俺の頭を撫でてくれる。


「なら私も異世界に行こうかな。私はレナちゃんと一緒に、図書館詣でね」

「そうだね吉野さん。ヴェーダさんから、トリム復活の魔法について、もっと詳しく聞いておかないと」

「ではあたしは、ダークエルフ国王のブラスファロン様と魔道士フィーリー様に、別大陸の情報がないか尋ねておこう」

「それならあたしは、キングーやエリーナと共に、ハイエルフの里で情報集めだ」

「キラリン、大忙しだな」

「そうね。異世界に飛んだら、そこからみんな次々に送ってもらいましょう」

「俺は浜辺ですね。エンリルが例の海辺に迎えに来てくれるって言ってたし」

「ほら、もっと吸いなさい」

「はい……」


 目を閉じ夢中になって吸っていると、幸せな気持ちがわずかながら復活してきた。


「そろそろ起きるか」


 タマが体を起こす気配がした。


「みんなの朝飯を作らないと。徹夜で眠いが、後で昼寝すればいい」

「わあ」


 レナがくすくす笑っている。


「今朝は出前でいいんじゃないかな。ご主人様、また元気になってきたし。もう少し時間がかかりそう」

「本当だ」

「さすがは婿殿」

「ふみえボスの胸は強力だな。これほど強い催淫効果があるとは……」

「タマちゃん、私はサキュバスじゃないわよ。それはレナちゃんでしょ」

「なんでもいい」


 汗を舐め続けていたケルクスが、またがってきた。


「今度はあたしからだ」

「聖なる刻印の効果は凄いね」

「そうだよレナ。婿殿の汗を舐めたから、もうそれだけでふらふらだ。舐められないトリムには悪いが、あいつには復活後に平を独占させてやろう」


 そのままゆっくり腰を下ろしてきた。

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