8-6 聖地の初夜

「……」

「……」


 晩飯は、なんだか恥ずかしくてよく覚えていない。レナやキラリンの軽口にうんうんと適当に上っ面だけの返事はしていた気がするが、頭の中には温泉でのトリムの言葉が渦巻いていたし、飯の後のこと考えるとなあ……。はあ、あと二時間後には俺、トリムとあれこれしてるんか――と思うと、なんか夢のようだったし。


「……」

「……」


 とにかくこうして今、ふたりっきりの寝室で、黙って向き合っているってわけさ。ここ妙に和風でさ。並べて敷かれた布団の上で、トリムは正座している。ふたり浴衣のような夜着姿で。黙ったまま見つめ合って。寝室だけに魔法ランプの明かりは暗め。かろうじてお互いの表情が読める程度だ。


「平……」


 急に、トリムが口を開いた。


「よろしくお願いします」


 深くお辞儀する。


「こ、こちらこそ……」


 なんだかいつもの明るいトリムと態度が全然違ってて、妙に恥ずかしい。


 ケルクスと初めてしたときは俺が深手だったこともあり、あいつはもっとこう淡々と服を脱いで、あっさり俺に跨ってきたものだが……。ハイエルフとダークエルフでカルチャーが違うってのもあるんだろうけどさ。


「……」

「……」


 また見つめ合う。


「……で」

「で?」

「これからどうするの」

「どうって……」


 どういう意味で言ってるのかと思ったが、トリムがふざけている様子はない。


「俺の嫁になりたいんだろ、本当の意味で」

「そうだよ。……どうやったら、平の嫁になれるの」

「それは……ええっ、知らんの?」

「もちろん知らないけど」


 きょとんとしている。そういやこいつ、アダルト方面の知識皆無だったわ。なんたって、サキュバスのレナが呆れまくるくらいだからな。


「平に任せればいいって、レナが言ってた」

「そうか……そりゃそうだな」


 別に知らなくったって、俺がリードすればいいだけの話ではあるか。そりゃそうだ。


「裸のトリムが横になって、俺が上になるんだよ」

「うんうん。平も裸になるの」

「着たまま……でもできなくはないが、普通は裸だ。肌が触れ合うほうが心が一体化するし」

「へえー面白いね」


 どうにも調子が狂う。


「それで、俺がトリムの中に入っていくんだ」

「またまたー」


 笑っている。


「平の体、あたしより大きいじゃん。それなのに、あたしのどこに入るってのさ」

「いや、俺の体の一部が、トリムの脚の付け根にだな――」

「一部ってどこよ」


 はあー……。


 なんだよ。これ性教育の時間かよ。


 トリムはハイエルフでも巫女筋の家柄。本来トラエでなくトリムが巫女になるはずだった。巫女は清い体のまま、引退まで過ごす。だから両親は、トリムに恋愛やこっち方面の知識は一切授けなかった。


 それは知ってるが、ものには限度ってのがあるだろ。それにもう、俺と一緒に暮らし始めて長い。吉野さんやタマが大寝室のみんなと分かれて、夜な夜なマンションの小寝室で俺とひと晩過ごすの、なんだと思ってたんだろうな。


 普通不思議に思って、レナやキラリンに聞くだろ。そうしたらあいつら、嬉しそうに全部話すに違いないからな。キラリンなんか、日本古来の四十八手だのインドはカーマスートラのエロ秘技とかの余計な知識まで、絶対脳内検索してぺらぺら教えまくるに違いないし。


 レナは、トリムの無知をむしろ面白がってた。だからあえてなにも教えなかったのかもしれん。キラリンあたりにもそのへん、口止めしてそうだし。


「まあいい。とにかくこっちこい」

「うん」


 のそのそ……。


「こんな近くでふたり、正座したまま向かい合っててどうする。将棋の王将戦かよ。俺の左に並ぶんだ。俺、右利きだし」

「こう?」


 肩と肩がくっつくくらいに寄り添ってきた。


「そうそう。それでいい」


 説明するのはめんどい。それに恥ずかしいし。実践で教え込むのみだわ。業務でやる、新人に対するOJTと思えばいいだろ。大差ないわ。


「さて……」


 抱き寄せると顎に手をかけて、キスを与えた。


「……んっ」


 刻印効果で、たちまちトリムの瞳がとろんと濡れてくる。


「ほら、舌出せ」

「はい……」

「そんな突き出してどうする。アインシュタインのあかんべー写真かよ。ちょっとだけでいいんだ」


 疲れるわ。


「こう……かな」

「そう。それでいい」


 そっと優しく吸ってやる。俺が舌を絡めると、トリムもおずおずと応えてくるようになった。


「ん……ん……んあっ」


 息が荒くなってきた。いつもながら、刻印効果って凄いな。キスしただけ。まだ体なんか全然触ってないのに。


「トリム……」


 夜着の前を広げると、手を侵入させた。トリムのかわいい左胸を、服の中でそっと撫でる。


「平ぁ……」


 ぐったりと俺に身をもたせかけると、俺の手が動くままにさせている。


「いやっ」


 胸の先をつまんでやると、震えた。逃げるように体が動く。


「逃げるな、ほら」

「だって……怖い」

「怖くなんかないさ」


 いつもの風呂とは全然違うな。風呂のときは俺が胸を洗っていても、別にトリムは反応しない。本当に、三助に体を洗わせている……というそっけない態度だし。


 襟を思いっ切り広げ、両肩まで露出させた。


「トリム……」


 丸出しになった右胸に顔を寄せ、先を口に含んだ。


「平ぁ……」


 甘え声で喘ぐ。


「トリム……」


 唇と舌でていねいに刺激を与え続けていると、胸の先が硬くなり、立ってきた。右手の指にも、同じ変化を感じる。


「あたし……なんだかヘン」

「いつもだろ。俺とキスすると」

「もっと……ヘンだもん。おしっこ漏れたかも……」

「それ、おしっこじゃないから。気にするな」

「でも……」


 説明は面倒だ。帯の結び目を解くと夜着を脱がせて、生まれたままの姿に剥いた。そのまま布団に押し倒す。


「トリム……」


 俺もさすがに興奮してきた。両腕を掴み、バンザイさせて布団に押し付ける。そのまま脇の下に舌を這わせた。


「いやっ……」


 いやいやと、首を振った。


「そこ……なんかヘン。あっ!」


 びくびくと、体が震えた。


 そうか。トリムは脇が感じるのか。吉野さんやタマ、ケルクスなんかとは、やっぱりちょっと違うな。みんなそれぞれ、部位によって感じ方が違うし、俺に触ってもらいたがる場所もまた違う。レナは特別だけどな。あいつサキュバスだから、どこ触ってもすごく感じてるみたいだし。


 いずれにしろ、感じるかどうかと触ってほしいかどうかは、また別っぽい。吉野さんなんかだと、両腕で優しく、包むように抱いてもらいたがるし。それでいて行為自体としては、俺に荒っぽく扱われると、すごく感じて声が出る。吉野さん、ちょっとMっぽいところがあるし。


「……」


 トリムの脇を、強く吸ってやった。白い肌に、赤いキスマークが残る。


「いやっ、怖い」

「暴れるなトリム」


 腕を外そうと、体をくねらせている。俺の目の前で、かわいらしい胸が揺れた。


「じっとしてろ」

「はい……」


 たっぷり時間をかけて、脇を攻めてやった。両方とも、すでに唾液でぐっしょりだ。トリムはもう抵抗する元気もなくなって、ただただ愛らしい声を上げ続けるだけになっている。


 下半身にそっと手を伸ばす。


「いやだよう……平。漏らしちゃったから恥ずかしい」


 恥ずかしそうに、両手で顔を覆った。


 たしかに……。


 本当に、漏らしたようにぐっしょりだ。布団までたっぷり濡れている。それだけ俺の行為に感じてくれたんだなと思うと、愛おしい。


「かわいいぞ、トリム」


 自分の夜着を、俺はむしり取って投げ捨てた。


「……どうするの、平」

「これが入るんだよ、トリムの中に」


 少しだけ、トリムは頭を起こした。


「うそ……」

「嘘なもんか」

「だってそれ、お風呂で大きくなる棒じゃん」

「……」

「嫁とは関係ないでしょ」


 なんだトリム、これ「風呂棒」と認識してたのか。


「あるんだよ。これが結婚だ」

「なら……いい」


 魔法ランプの光に、トリムの瞳がきれいに輝いていた。


「平になら……お風呂棒使われても」

「もう黙れ」

「うん」


 なんか笑いそうになるからな。


 脚の間に体を置いた。腿を掴んで開こうとすると、体を起こして抵抗する。


「嫌だよ。恥ずかしいってば」


 普段はあっけらかんとしているのに、意外に恥ずかしがりなんだな、トリム。多分、本能的にこれからすることの意味がわかるんだろうけど。


「いいからじっとしてろ。俺のこと好きなんだろ」

「……うん」


 頷いた。


「平は……あたしの大事なご主人様。それにあたしは、平の嫁。ハイエルフたったひとりの、平の嫁」

「そうだ。お前は俺の立派な嫁だ。だから全て俺に任せろ」

「わかった……」


 体を横たえてくれた。俺が腿を開かせても、諦めたのかじっとしている。


「かわいいぞ、トリム」


 思ったより、ずっと色っぽい。体のあちこちを刺激されて興奮したのか、脚の付け根はわずかに色づいており、膨れ上がっている。俺を待ちかねたかのように。


「……んっ」


 そこに手を添え、女の子の感じる場所を、ゆっくりと撫でてやった。


「ん……ん……」


 またトリムの息が荒くなってきた。


「指……いや……」


 試しに指の先だけ埋めてやると、中は熱く、柔らかい。もうダメだ。俺の頭の中を、黒い欲望が満たしてゆく。


「痛いだろうけど、暴れるなよ」

「うん。平はあたしのご主人様だもん。なにされても幸せだよ」


 先を当てる。熱くて狭い。入り口だけでこのキツさだとトリム、相当痛いだろうな。


 そうは思ったが、これを乗り越えないとトリムは、真の嫁にはなれない。それに俺ももう我慢の限界だ。トリムの中に体を埋めて味わい尽くしたいという欲求が、もう体中から漏れ出しそうだ。


「力を抜け、トリム」

「うん」

「行くぞ」

「……」


 もう返事はなかった。トリムはじっと、俺の目を見つめている。愛に溢れた瞳で。


 それに心を強くし、強い抵抗を押しのけ、熱い世界へと俺を押し込んだ。


「あっ! あっいやっ!」


 苦しそうに叫んだトリムが、強く体を反らす。かわいい胸が、誘うように揺れた。俺へのトリムの気持ちを表すかのように。

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