1-5 新月の夜、ケルクスと

「ふう……」


 ぐったりとなったケルクスは、寝台で荒い息をついている。俺の腕枕で、体をもたせかかって。裸で、汗びっしょりだ。


 今日は新月。約束通り、俺はダークエルフの里、ケルクスの元を訪れた。もう夜も深い。樹上小屋の窓からは、風に森の木々が葉を鳴らす音が聞こえるだけだ。新月だけに、外は真っ暗闇だ。


 ひと晩泊まると決めてある。そのつもりで、グリーンドラゴン・イシュタルの元に、吉野さんを一夜妻(マッサージ)として出している。


「平お前……凄いな」


 うっとりと甘えるような口ぶりで、俺の胸に唇を寄せた。


「死ぬかと思ったぞ。……これが男なんだな」

「もう怪我もだいぶいいしな」


 前回は女神ペレ戦直後で、瀕死の状態だったからな。横たわる俺にケルクスがまたがってきてくれて、一度しただけだった。だが今日は絶好調だ。俺が上になって主導権を握り、攻め立てたってわけよ。


「それにケルクス、お前の料理がうまかったからさ。元気になった」

「そうか……。なら頑張って作った甲斐があったな」


 晩飯として、煮込み料理を出してくれたんだ。肉と野菜がたっぷり。香辛料をかなり使っているようで、エキゾチックでスパイシーな味だった。


「あれ、時間が掛かるんだ。お前の喜んでくれる顔を想像しながらだから、楽しかったぞ」

「ありがとうな」


 抱き寄せると、ケルクスは熱い息を漏らした。


「平に抱き締められると……どうしてだろうな、幸せな気持ちになる」

「キスしてくれ」

「……んっ」


 瞳を閉じて、ケルクスが顔を寄せてくる。俺はケルクスを押し倒した。


「今日はまだまだ許してやらないぞ」

「……うれしい」


 太腿をぐっと大きく開かせ、両手をケルクスと握り合った。見つめ合う。


「平……」

「ケルクス……」


 俺が腰を進めて入っていくと、ケルクスは頭をのけ反らせ、ひと声うめいた。


         ●


 寝台の上、俺に背を向けてケルクスは寝息を立てている。引き締まった体を、俺は後ろから抱いている。ゆっくり胸を揉んで胸の先にいたずらしているが、疲れ切ったのか、ケルクスは夢うつつだ。


 肩に口づけしてやると反応して、体がぴくりと動いた。


「……平」

「気がついたか」


 そのまま背中を舐めてやる。ケルクス、いい匂いがするんだわ。刻印による契約のせいかな。


「お前にこうして添い寝してもらえると、生きていて良かったと思える。……孤児ですら、な」

「悲しいことを言うな。お前は俺の嫁になったんだろ」

「そうだ。この世界一の男の嫁に」


 くすくす笑うと、背中が揺れた。


「……なあ平」

「なんだ」

「お前、よこしまの火山に行くんだろ」

「そうだ。アールヴの遺跡を探索しないとな」


 なんせ寿命を取り戻さないとならないし。


「考えたんだが、あたしも行っていいか」

「お前がか」

「一応、ブラスファロン様には、許可を取ってある。お前の嫁だから、あたしがお前と旅する件に関しては、快諾してくれた」

「そうか」


 まあそうだろうな。ダークエルフのブラスファロン国王は狡猾だが、嫌な奴ではない。聡明だ。ケルクスが俺と旅することで、なんらかのアーティファクトでも得られるのではないかくらいは考えているはずだ。


 それにそんな打算を抜きにしても、俺とケルクスは、国王から見ればダークエルフの臣民だからな。保護すべき対象であって、意地悪をするはずはない。


「平のパーティーだと、トリムもタマも、土地読みは得意だろうさ。でもこのあたりの地理は、あたしのほうが詳しい。どうだ」

「そうだな……」


 考えた。たしかにそうだ。それにパーティーが多い分、戦闘リスクが減る。


 加えて俺のパーティーには今、魔法系の術者がいない。間接攻撃はもっぱらトリムの弓術、それに火炎弾、あとミネルヴァの大太刀からの吉野さんの雷撃に頼っている。トリムの魔法は、ハイエルフだけに切り札って話だし。


 回復に至っては吉野さんのポーション頼り。タマの回復スキルはあるが、あれは戦闘後しか事実上使えない。


 ケルクスはダークエルフだから、魔法戦士といったところだ。パーティーに加える利点は大きい。だが問題は……。


「どうした黙って。嫌なのか、平……」

「そうじゃないんだ。ただな……」

「トリムを気にしてるんだな」

「……まあそうだ」


 トリムはハイエルフだ。育った里での評判から、ダークエルフという種族をあまり好いてはいない。まして目の前でケルクスが「聖なる刻印」を俺に打たれたのを見たからな。


「お前が嫌なら止めておく。気にするな」

「いや……。せっかくの申し出だ。世話になるよ」

「そうか。良かった」


 くるりと向き直った。俺の胸に頬を寄せてくる。


「道中よろしく頼む。婿殿」

「こちらこそ」


 いずれにしろ、いずれトリムとケルクスの仲を取り持たないと、とは思っていた。ならこれは、いい機会かもしれん。旅の仲間として互いに助け合えば、おかしなわだかまりも解消するだろう。ケルクス側には遺恨もないようだし、トリムだって根は素直な娘だ。


 ところで、それよりも……少し、気になるところがある。


「ちょっといいか」


 ケルクスを仰向けにした。部屋の明かりに、形のいい胸が影を引いている。


「どうした」


 答えず、ケルクスの胸に唇を這わせた。先を吸い、汗を舐め取る。


「……あ」

「やっぱり甘い」


 ふざけて背中を舐めていて気づいたんだが、汗が甘い。しかも舐めていると次第に、頭が痺れていくような気持ち良さがある。これは……。


 以前、トリムは俺のキスが甘いと言っていた。多分これと同じだ。ということはこれ、「聖なる刻印」の影響なんだな。以前レナが、「エルフとのアレは気持ちいいらしいよ」とか教えてくれた。それって多分、この効き目もあってのことだろう。


「ケルクス。これ舐めてみろ」


 自分の首筋の汗を触った人差し指を、ケルクスの唇に押し付ける。


「……んっ」


 唇を開くと、ケルクスは熱い口腔に俺の指を入れてくれた。舌が動く。


「どうだ。甘いか」

「……ん」


 俺の指を吸ったまま、ケルクスは頷いた。うっとりと瞳を閉じている。


「そうか……」


 やっぱりだ。聖なる刻印を打つと、パートナーの体液が甘く感じられるんだな。……しかもおそらくこれ、催淫効果がある。実際俺、もうガンガンに興奮しつつあるし。


 俺の指を夢中で吸っているケルクスの間に、俺は体を置いた。


 ケルクスが薄目を開ける。


「……またするのか」

「ああ……。いや、こうするか」


 思い直し、ケルクスをうつ伏せにした。腹の下に手を置き、引っ張る。


「四つん這いになるんだ」

「こ、こうか……。あっ」


 体を起こしたケルクスを、俺は後ろから貫いた。

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