ep-7 エレクアとドナツーの約束
「へえ、お姉ちゃん、無事だったんだー」
パタパタと玄関に顔を出したトラエが、開口一番、全く悪びれずに口にする。
ここはハイエルフの里。聖地にある巫女の館。もちろんパーティー揃って打ち合わせに来たところだ。なんせ宝珠合一の段取りを決めんとならんからなー。
「女神ペレの再封印に挑んだんだから、ヤバいのかと思ってた」
「無事だったはないでしょ」
呆れたように手を腰に当て、トリムが口を尖らせた。
「トラエあんた、あたしのこと、全然心配してなかったの」
「そんなことないよ。毎日お昼寝しながら、お姉ちゃんと平のために祈ってた」
「呆れたっ」
さすがのトリムも口をぱくぱくしてるな。
「なんの用。お菓子持ってきてくれたの」
「それもあるけどさ。ちょっと相談があってな」
「お菓子あるならいいよ。上がって上がって」
満面の笑みだなー。なんというか、トリムをもっと能天気にした感じ。さすが甘え上手の末っ子気質というかな。
●
「ふーん。先祖伝来の宝珠をくっつけるんだー」
巫女の間で俺達パーティーの長い話を聞き終わると、トラエは頷いた。なんというか、感慨のない娘だなあ、トラエ。ハイエルフの歴史上、大きな節目だろ、これ。
「いいんじゃない。宝珠が合一すれば霊力が高まる。その分あたしも楽になるし」
トラエはハイエルフの巫女だ。種族の霊力維持が大きな仕事だから、宝珠に一部をぶん投げられる分、たしかに楽にはなるだろう。
「ダークエルフの霊力の衰えも止まるだろうしね。あの杖、返したんでしょ。ダブルで効くじゃん」
板張りの床に座布団であぐらを組んだまま、俺達が土産に持ち込んだコンビニスイーツを、もぐもぐ食べている。釣られて、トリムや吉野さんも手を伸ばし始めた。タマまでうまそうに食ってるなー、モンブランシュークリームとかいう奴。
「あー、このエレクア、やっぱりお茶に合うねー」
「エクレアな」
トリムが間違うもんだから、妹もそのまま覚えてんな。
「いいんだよ、名前とか。さて、次はドナツーにするか」
「おいしいよね、このコンビニのドナツー」
「お姉ちゃんとは、スイーツの趣味、昔から合ってたもんねー」
姉妹でうんうん頷いてやがる。もういいよ、ドナツーでもなんでも。
「それでさ、宝珠の合一ってどうやるんだ」
「そうねー……どうやるんだったけなー」
天井を見てなにか考えていたが、ちらと俺に視線を飛ばしてきた。
「忘れちゃったわ。スイーツもうないし、もっと持ってきてくれたら脳が糖分で活性化して思い出せるかも」
ヘンなところだけ科学的だな。
「今度たくさん持ってきてやるから、今教えろ」
「よし。交渉成立っと」
嬉しそうにお茶を飲んでやがる。
「場所はね、本当はハイエルフかダークエルフの聖地がいいんだ。祖霊の力が極限まで高まるから。……でもどっちの種族も嫌がるでしょ。行くのも嫌だし見られるのにも抵抗があるから」
「なるほど」
干物妹と言えども、仕事関連はちゃんと考えられるんだな。
「だから双方の中間地点くらいがいい」
「なら女神ペレの草原はどうかな」
吉野さんが口を挟んできた。
「あそこどっちの里からも離れてるし、距離もそう変わらない。それにペレの草原は両部族が力を合わせた場所だしね。かつても、つい最近も」
「うん、いいね」
トリムも賛成した。
「ならそこでやるか……」
トラエはまた天井を見て指を曲げたり伸ばしたり、なにか数えるかのように動かしている。
「踊れる場所あるよね」
「大丈夫、トラエ。あそこならあたしとふたりで踊れるよ」
エレクア――あーエクレアな――のチョコが着いた唇を拭いながら、トリムが口を突っ込む。
「ふたりで……」
「そうだよ平。あたしやお姉ちゃんの家系は、そのために生きてるんだもの。霊力が強い一族だからねー」
トラエは、なにを当たり前のことを……といった表情だ。
「いざってときに働く役目か」
「そうそう」
はあ、だから普段は巫女の館で、仕事だか遊びだかわからん暮らしをしてるのかもな。
「儀式のための資材やなんやかやは、あたしが準備しておくよ。カナエのおばさんに頼んでおくから。日程はねえ……月と太陽の力がいちばん高まる頃がいいから、これも考えておく。一週間後にまた来てね。そのとき相談しよう」
「おう、任せとけ」
なんだ。やるときゃてきぱきできるんだな、トラエも。
「スイーツ忘れちゃ嫌だからね」
「安心してトラエ。あたしが平に命じてたーくさんもたせるから。あたしたちも食べなきゃならないしね。エレクアの山を」
「そうそう、ドナツーの山盛りも」
「だよねー」
なんだかんだ、姉妹で仲いいんだな。俺は兄弟いないから、なんとなく羨ましいわ。まあトリムがちゃっかり自分の分の山盛りスイーツも確約したのは笑えるが。
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