ep-3 第四のエルフ、アールヴ

「平個人の望みだな。太古に失われた三氏族の情報、そして延寿の秘法」

「はい」


 さすがはダークエルフのブラスファロン国王。頭が切れる。よく覚えてたなー。


「それも話してやろう。これらについては、部族内でも知っておる者はほとんどおらん。ここにいる連中でさえ、な」

「お願いします」


 とりあえず頭を下げておく。屈むとちょっと傷が痛む。でもタダだし。いくらでも下げたるわ。


「まず最初に、我らは失われた三支族ではない。お前の見込みとは違って悪いが」

「えっ……」


 くそっ、じゃあ延寿も無理か。図書館長ヴェーダによるとあれ、三支族に受け継がれた力だって話だし。


「だが……」


 ブラスファロンは、淡々と続けた。


「延寿については、吉報がある。今すぐは無理だが、こちらは可能性があるからな」

「本当ですか」

「ああ」


 頷くと、ブラスファロンは説明を始めた。


 エルフ各種族が統合されていた時代には、延寿の秘法は受け継がれていた。なぜならそこに失われた三支族もいたから。だがエルフ各種族が分派していく過程で、それは霧散し、三支族系列以外からは失われた。


「そして、エルフが統合していた時代の象徴が、伝統の宝珠だ」

「今回、ハイエルフと欠片を持ち寄る宝珠ですね」

「そうだ。欠片合一により、延寿の力が復活する可能性はある。そうなれば、お前に秘法を授けてやろう。ハイエルフのケイリューシ王も反対はすまい」

「ありがとうございます」

「まあ、お前も今や我ら一族の婿。ヒューマンとはいえ長生きしてもらわんと、ケルクスがかわいそうだしな」


 国王になんやかやイジられても、ケルクスは無言を貫いている。多分、俺が最大限に利益を得るように考えてくれてるんだろう。


「ではさっそく、宝珠合一の準備に入ります。俺はこれにて失礼を――」

「慌てるでない」


 ブラスファロンに笑われた。


「気が早いぞ、平よ。怪我をしているのだ。休養を取りつつ動け。……それにお前には、もうひとつ、いい情報を与えてやる」

「なんでしょうか」


 なんだろ。なんかアーティファクトくれるのかな。いや、情報って言ってた。だから違うか。


「失われた三支族。それについては、先王から聞いておる」

「マジですか」

「ああ。先程も言ったように、たしかにエルフの系譜に、三支族のひとつがおったからな」


 まじか。失われた三支族のひとつはドワーフだった。もうひとつがエルフ系列なら、残りはあと一種族ってことになる。


「でもそれ、ハイエルフでもダークエルフでもないんですよね。もしかして普通のエルフですか」

「いや、アールヴだ」


 側近連中がどよめいた。


「なんとっ!」

「いつの時代じゃ」


 口々に叫んでいる。


「アールヴについて知っておるか、平よ」

「いえ……知りません」


 名前すら聞いたことがない。


「アールヴは、森を捨てたエルフ。特に古い種族だ。極端に秘密主義で、内部に秘跡を多く隠し持っていた。連中なら、かなり効果の高い延寿の秘法を持っているはず」

「マジですか」

「アールヴは、とうの昔に滅びたと言われておる。ここ何百年も、誰も見たことがないからな。……だが、この大陸での居場所なら知っておる。おそらく廃墟となっておるだろう」

「そこに行けば、延寿の秘法アイテムがあるかもってことですよね」

「というより、もうひとつの欠片だ」

「エルフ統合の象徴。その宝珠ですね」

「そうだ。それを統合の珠に再度合一させればおそらく、また延寿の力が発生する」

「なるほど……」


 これはマジ超絶有用情報だ。さっそくあれこれ調べないと。


「アールヴは、どこにいたんですか」

「うむ……」


 俺の顔を見て、ブラスファロンは口を開いた。


よこしまの火山」

「邪の……」

「その麓だ。……意味はわかるな」

「ええ……」


 邪の火山は、天使イシス情報だと、おそらく魔族を束ねるルシファーの本拠地。そこに近づくってことは、魔族に悟られて戦闘になる可能性が高い。とてつもなく危険だ。これまで誰も宝珠を回収できてないのも当然だろう。


「お前がもしアールヴの宝珠を得て生きて返ってこられるなら、それは我らダークエルフにとっても、ハイエルフにとっても、百年千年の祝いとなることであろう。もうひとつの宝珠を合成させられるから」


 そりゃそうだろうが、俺は寿命を取り戻す旅をしている。そのために死ぬんじゃ意味がない。なら当面、ここでもらえる延寿だけで我慢し、アールヴの宝珠は無視して先に進み、他で延寿アイテムを探すほうがいいかもしれない。


 黙りこくった俺を興味深げに眺めていたブラスファロンは、高位の魔法使いと思しき側近フィーリーを呼び寄せた。なにか耳打ちする。


「平よ」


 フィーリーが話しかけてきた。


「邪の火山は危険な土地だが、その分、様々な恩恵に溢れている。お前とそのパーティーにとってはな。それに……お前とは運命で繋がっている」

「俺と……」


 俺が例の火山と関係してるってのか。わけわからん。


「そうだ平。祖霊がそう語っている。その地でお前は、大いなる試練に立ち向かうことになるだろう。命の危機にもな。……だがひとつ、不思議な出会いがあるであろう」

「不思議な……出会い」

「ああ。お前との因縁があると、祖霊は告げている」

「誰ですか、それ」

「行けばわかる。行かねばお前との出会いは、今後一生ない」


 なんだよ。曖昧な謎掛けみたいな話ばっかしやがって。舌先三寸でガード下で小銭稼ぐ、インチキ占い師かよ。


「それじゃさっぱりわからない。もっとはっきり言って下さい。それともあんた、適当な――」

「よせ、平」


 ケルクスに腕を掴まれた。


「フィーリー様は、嘘やでたらめなど口にせん。あれでも限界まで祖霊と語ってくれたに違いない」

「うむ」


 面白そうに、ブラスファロンが頷いた。


「ケルクス、さっそくいい嫁になっておるな。まあふたり、仲良くやるがよい。国王として祝福する。……いろいろこの後が楽しみだのう」


 思わせぶりに口にすると、ユミルの杖で床を叩いた。愉快そうに。

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