4-10 脳内エロ妄想PDCAサイクルの午後
「ふわーあっ」
朝の副社長説教に続き、ここ安雑居ビルの三木本商事経営企画室吉野チーム分室でも、また大あくびが出た。吉野さんがいたら「情けないわよ平くん」とか言われるんだが、今日は有給休暇中。なんせ昨日朝まで激しく俺と――以下略。
俺だって朝八時の副社長呼び出しがなけりゃ今日は休んだんだがな。昨日誕生日でハメ外すのは見えてたし。まあ今日はこのオフィスに俺ひとり。適当に昼寝してサボり過ごすわ。どうせここ、誰も来ないし。今日は異世界に行かないから、タマゴ亭さんの弁当配達もなかったし。立ちそばで昼飯にした午後だから、もう眠いわ。
――ピロリンッ――
社畜スマホの通知メッセージ。見るとやっぱりマリリン・ガヌー・ヨシダ博士だ。内容を見ることもせず、俺はメッセージを削除した。どうせまたぞろなんやかんや理由をつけて俺を呼び出し、研究用に精子を入手しようとするに違いないしな。
今日は博士のところにレナとキラリンを助手として派遣している。レナ、すごくやりたがってたしな、助手。知識欲旺盛なんだわ、レナ。なんにでも前向きな奴だから。それにキラリンは元謎スマホだけに、脳内検索マシーンだ。音声認識の超便利AI、しかも体を動かしての作業も可能と考えれば、これまた助手にうってつけだ。
まあ仲良くやってくれ。天才少女科学者(変人)、サキュバス(超小型)、謎スマホ(人型)という、ワケわからん三人組で。
通知音で中断されたエロ妄想に、俺はまた戻った。基本、昨日の4Pの脳内リプライズと、今後に向けての検討だ。事がエロとは言えども、やっぱPDCAサイクルは回さないとな。リーマンの基本だわ。
このためにここ、分室に籠もってるんだからな。本社ビル内の経営企画室の俺の個室だと、誰か来ないかと気が散るからさ。ことはなんたってエロ妄想だ。このボロビルなら本社の人間、嫌がって誰も来ないしさ。
「3Pはやりやすいが、4Pはなにかと難しいな」
口に出すと俺は、安マグカップのお茶を飲んだ。マグカップこそどこぞの展示会でのもらいものだが、できあいのオフィス茶じゃなくて、タマゴ亭さんが築地の知り合いから買ってきてくれる煎茶だ。お湯の温度と抽出時間さえきちんと守れば、かなりうまい。
俺はあんまりそのへん気にしないガバ茶派なんだが、吉野さんが几帳面なんで、影響されて最近はちゃんと煎れることが多い気がするわ。
本社経営企画室からかっぱらってきたコピー用紙の束から一枚抜き取ると、俺は長方形を描いた。
「これがベッドとして……」
棒を三本、川の字に描く。
「3Pは配置が容易だ」
3Pは基本、吉野さん当確で、あとはタマかレナが相手だ。ふたりの間に俺が入ればいい。抱き寄せてキスを交わしたりできるし、もっと寄ってもらえば、ふたり同時に手や口で刺激できる。事が始まってからだって、もうひとりにも手を伸ばせるし。
「問題は4Pだ」
昨日の夜、初めてした行為だ。俺の誕生日だったから特別だったんだろうが、吉野さんがOKしてくれた以上、今後もないとは言い切れない。てか俺が頼めばなんとかなりそうだし。
「さて……」
川の字にもう一本、どう線を引くか。俺の手は紙の上を空しくさまよった。昨日はあまりうまく行かなかった。つまりどうしてもひとり、放置気味になってしまう。
三人並んでもらっても同時での刺激は難しいし、事の最中にしてもそうだ。無理に同時交接を試みるところを映像で想像してみると俺、コメツキバッタみたいで滑稽だわ。
俺のエロ行為、どうせドラゴンロードのエンリルが全部ガン見してるに違いないからな。あんまり恥ずかしいプレイはしたくない。なんたって仮契約とはいえ、あいつは俺の使い魔。俺の行為はいつでも勝手に盗み見られるらしいし。
ドラゴンロードの一生は長い。しかも種族の生態として基本、孤独だ。巣で
もしエンリルがエルフやドワーフのような人型モンスターだったら、ソファーに横たわり、ポテチ片手にテレビで俺のエロ行為を鑑賞しては「今日の得点」を紙にちまちま書き付けてることだろう。難度ウルトラC、技術点三、芸術点八、体力点九とか。
なんなら日々の推移を折れ線グラフにして悦に入ってるかも。最近、ようやく技術が向上したなとか、一晩の平均射精回数が九回に落ちてる、精のつく食べ物でも取らないとまずいわ――とかさ。
これは恥づいwww 相手は人型じゃなくにょろにょろドラゴンの脳内再生だから、これよりはまだはるかにマシだ。だが恥なのに代わりはない。
「まあヘビトカゲの話はもういいか」
俺はまた4P検討のエロ妄想に戻った。
唯一うまく運用できそうなのは、俺が横たわる受け身パターン。ひとり騎乗位にして、残りふたりにはいろいろしてもらう。それで適宜交代させればいいわけで。
「ただこれにも問題がある」
もう一枚紙を並べると、頭の中の思考を箇条書きにした。
一 バリエーションがない。最初から明け方までそれってどうよ。
二 俺がもっとあれこれしたい。受け身でなく主体的に。
三 吉野さんの満足度が微妙。
タマは獣人ケットシーだけに、俺の体を舐めたり匂いをかぐのが好きだ。もしかしたら行為そのものより好きなんじゃないかと思うときがある。だからこのバランスは、むしろ好むだろう。
レナはサキュバスだから問題ない。どんなエロ行為だろうが大歓迎のはずだから。
だが
それに基本、吉野さんにはややMっ気がある。だから自分から動くより、俺にあれこれしてもらいたがるところがある。
昨日の夜だってタマの見様見真似で俺の胸や脇、下半身に唇を這わせてくれはした。だがどちらかというと横になり、俺が好き勝手に体をもてあそぶのを喜んでくれる気配が強い。いやいや恥ずかしいと言いながらも、拒絶してこないし。
俺が能動的主体的に動きながら、三人を同時にうまく攻略する手法はないだろうか――。
ベッド用紙にあれこれ線を引いては考えた。紙が線でいっぱいになると丸めて屑籠に放り込み、また線を引いて。
ふたりを刺激しつつ、もうひとりには俺の背中や尻を責めてもらうとか……いや俺が動きづらいし重いか。陥落し、ふたりの上にのしかかっちゃうわ。
ひとりだけ相手にし、残りふたりに両側から刺激してもらうのはどうだ。俺を舐めてもらったり、加勢してもらったりとか……。吉野さんのM体質を考えるなら、吉野さんが下になるとき限定だろうが。
吉野さんと事を持っている間、タマとレナが吉野さんの胸を両側から刺激するわけか。うーん……。それはそれで、ふたりの頭が邪魔だな。
「うーむ……。なかなか難しいな……てか俺」
ふと素に返った。俺、真っ昼間のオフィスでなにやってるんだろw 真面目くさってエロ妄想に耽けるとか。馬鹿じゃん。
「まあいいか。どうせ異世界でも午後はあらかた遊んでるだけだし。変わらんわ」
サボって給料もらえてるんだからなー。俺の天職だわ。それに遊びつつもちゃんとトップクラスの実績は出している。誰からも文句言われる筋合いはない。
「さて……」
気を取り直し(と言っていいのかわからんが)、俺はまたエロ妄想に戻った。
「後立位なら楽かも」
壁に手を着いてもらって、射的をするように俺が動く。バランスは悪くない。そう深夜一時くらい。ひととおりみんなと楽しんだ後での目先変えにはいいかもな。
「いろんなパターンを試したら、俺が横になるか」
そこで受け身パターンを入れる。M心を満足させた後だから、吉野さんも受け入れやすいはずだし。で、このインターミッションを挟んで、後半はまた俺が怒涛の攻めを見せればいい。
「そのときはえーと……」
脳内で幾通りものシミュレーションをしていると、突然、オフィスのドアが開いた。なんせここは安雑居ビル。本社のようなICカードを用いたセキュリティーとかはない。誰だって勝手に入ってこられる。
「おい平」
入ってきたのは川岸だった。なんやら知らんが、こめかみに青筋がぴくぴく立っていて、頭から湯気が出てきそうなくらい。どうやら怒ってるな。かなり。
「……なんだ川岸。お前、俺に用なんかないだろ」
「おおありだ」
怒鳴ると、ドアを乱暴に閉める。
なんだ川岸、やろうってのか。
俺は身構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます