3-7 小部屋の秘め事
「もうみんな寝ましたか」
「うん」
吉野さんは頷いた。マンションクラブハウスの小寝室。部屋着姿で、俺と並んでベッドに腰掛けている。
「キラリンちゃんもトリムちゃんもぐっすり。晩御飯のとき、ちょっと飲みすぎてたしね」
「嬉しかったんじゃないですかね、トリム。なんだかんだ言って、久し振りに里帰りできて、両親とのわだかまりも解けたみたいだし」
「そうね。最近、ご飯も招待されたしね」
「ええ」
トリムの実家に招待されて一泊。大宴会の大騒ぎを、俺は思い返した。
「なんか親父さんにやたらと飲まされましたけど、俺」
「あら当然じゃない。召喚で娘を奪ったんだし。酔い潰して殺すつもりだったんでしょ」
そういや、おっさん、目がマジだった気がする。笑いながら俺の肩を抱き、親しげに酒を酒器に注ぎながらもな。
それにトリムの奴も、刻印とはどういうものか、あの場で母親にこっそり耳打ちされたらしいわ。聞き耳を立ててたレナに、後で教えてもらったよ。そりゃたしかに、もう巫女になることはないし、すでに一次刻印を俺に打たれている。今さら秘密にしておく必要ないしな。
レナが言うには、「刻印は恋人の証」と聞いただけらしいから、エッチな方面はまだ知識ゼロも同然だって話だったが。
「大変ねえ平くんも。これからずっと、お父さんに監視されるわよ。ウチの娘を不幸にしたら許さないってことで。……いざとなれば暴れ込んでくる勢いだし。
「止めてくださいよ。想像するだけで漏らしそうだ」
のんびり弁当食ってるときにハイエルフ軍団に矢ぶすまにされるとか勘弁。弁慶の立ち往生じゃん、まるで。
「ふふっ」
「まあ冗談はともかく、宴席ではキラリンがもててて笑いましたけどね」
「キラリンちゃん、中学生みたいな見た目なのに、お酒強いもんね。薦められるままにぐいぐいやるから、みんな大喜びだったじゃない」
「見た目がグロくて匂いのキツいローカルフードでも美味しそうに次々平らげるから、あいつだいたいどこでも喜ばれますよね」
ハイエルフの超絶美形に囲まれてちやほやされるキラリンの様子、なかなかの見ものだったわ。どこのホストクラブだよって感じで。
「最初はお寿司ですら腰が引けてたのにね」
「酒飲みはなんでも食えるようになるんですよ」
「そうね。私も父親の晩酌に付き合うようになって、ホヤとかナマコとか好物になったし」
「あの手の珍味は、酒飲んでこそ、ですもんね」
「うん」
「ところでタマとレナはどうです。寝てましたか」
「一応目をつぶってた。キングーさんもぐっすり。……タマちゃんは、もしかしたら起きてるかもだけど」
「眠ってても気配だけは感じる、獣人ですからね」
「野営のとき、助かるわよね」
「はい」
いや本当に。深く寝入っていても、ネコミミだけはぴくぴく動いてるからな。誰かが忍び寄ってくれば、すぐ飛び起きて警戒態勢に入るし。
「ふたりっきりは、久し振りですね」
「そうでもないでしょ。三日前にも一緒に寝たじゃない」
「でしたっけ」
第一の延寿を施した晩、俺はこの部屋で吉野さんやタマと過ごした。あれ以来、俺はたまにこの部屋で独りっきりで寝るようになった。適当な理由をつけて。すると吉野さんやタマが、夜、会いに来る。
だいたい、吉野さん二回に対し、タマ一回くらいの割合だ。どう話を着けてるのか知らんが、うまいこと調整してるみたいだ。第一の延寿のときのように一度だけ、吉野さんとタマが一緒に来たこともあった。ふたり同時に相手したからその晩は、どえらく興奮したが……。
レナは基本、来ないよ。サキュバスだけにあいつは夢の中で俺と会えるから、割とそれで満足してるようだし。実際、レナと現実世界で関係持ったのは、最初のときと吉野さんのマンションでの風呂プレイの、二度だけだ。
とにかく、吉野さんとは初めての夜、沖縄の夜、この間の秋猫温泉旅行と、数えるほどしかエッチなことをしてなかったが、最近では割と定期的に関係を持てている。普通の恋人のように。
多分だが、年末年始の温泉旅行で何度か続けざまにして、吉野さんがこうした行為に慣れてきたからだ。
「三日前にしたのに忘れるなんて。平くんったら、寿命を捧げて老人になったから、ボケてきたんじゃないの」
くすくす含み笑いしている。
「老人どころか、元気そのものですけどね」
吉野さんの手を取ると、下半身に導いた。
「いやっ、セクハラ」
手を引っ込める。
「もう硬くしてる。……平くんってば」
「見てみます? 吉野さん、ちゃんと見たことないでしょ」
「えっ……」
黙っちゃったが、拒まれてる雰囲気でもないな。下半身だけ素早く脱ぐと、俺は立ち上がった。
「ほら」
「うわ……」
パジャマの裾を割ってそそり立つ奴を恥ずかしそうに一瞬だけチラ見して、吉野さんが絶句した。
「真横から見ると、すごく大きいのね。こんなものが全部私のお腹に入るなんて、ちょっと信じられないかも……」
「触ってもいいですよ」
「う、うん……」
今度はちゃんと見てくれた。こわごわ……といった様子で、おずおずと手を伸ばしてくる。親指と人差指で一瞬挟むと、びくっと離した。
「硬い……。もっとゴムみたいなのかと思ってたけど、剣の柄くらいしっかりしてる」
「握ってみてもいいですよ」
「こんな感じ……かな」
右手で軽く握ってきた。
「うわ。火傷しそうなくらい、熱いのね」
「吉野さんの中のほうが熱いですけどね」
「やだもう」
恥ずかしそうだ。初めて見る虫を触るくらいのこわごわした手付きだが、それでも撫でたり摘んだり握ったり、それなりに興味はありそう。よく考えたら触ったことがないだけで、もうこれ自体を体に受け入れてたわけだしな。
「目が悪いでしょ。もっと寄っていいですよ」
「うん……」
顔を寄せてきた。吉野さんの熱い息がかかる。
俺は腰を前に出した。
「あっ」
先が唇に当たって、驚いたように頭を引いたな。
もう一度唇に当てると、また引いた。のろのろと俺を見上げてくる。
「平……ご主人様」
それだけ口にすると、黙ってしまった。ゆっくりと視線を落とす。吉野さんの顔が近づいてきた。瞳を閉じている。
「ん……」
温かいもので包まれた。あの恥ずかしがりの吉野さんが、とうとう俺のものを……。なにも知らないぎこちない動きは、かえって興奮する。俺は、あっという間に高まった。
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