1-8 仲良し気分の朝

 秋猫温泉初日の夜。結局、当然のように布団を並べて、例によって雑魚寝となった。寝るときはちゃんとおとなしく秩序を持って並んだんだ。朝起きたらもう、ぐちゃぐちゃになってたけど。


 なんせ俺の両側に、タマとトリムが抱き着いてたし。タマが吉野さんを押しのけて俺の脇に陣取るのは珍しい。吉野さんがトイレに立った折にでも、転がってきたんだろう。俺の胸に顔を埋めて、幸せそうな無垢の笑顔で、すやすや寝入ってたよ。


 またトリムがなあ……。寝乱れて、浴衣がはだけて裸も同然だ。上半身も下半身もほぼすっぽんぽんで、浴衣は帯で留まってるだけみたいになってた。なんかくすぐったいんで目が醒めたら、もう朝だった。くすぐったいのは、唇にトリムの胸の先が当たってたからだったわ。トリム、俺の頭を抱えるようにして寝てたし。トリムが寝息を立てる度に、唇をくすぐるように動くんだよな、それが。抱き枕にされてるわ、俺。


 まあ俺が寝てて良かったというか。起きてたら、みんなの前といえども吸い付いていたかもしれん。トリムの三助攻撃で下男体質に調教済みの俺と言えども、いくらなんでも、この誘惑には負ける。薄い色、柔らかな胸の先で、唇をつんつんされちゃあな。


 延寿の秘法により、俺の寿命は八年あまり回復した。たった八年しか延寿できずに傷ついたメンタルも、レナと軽口叩けるくらいには回復した。こんな感じよ――。


「これでご主人様は、後期高齢者から普通の高齢者に若返ったね」

「嫌な言い方するな。たしかに後期高齢者、つまり七十五歳相当から実質六十代に若返ったわけだが……。それに俺が高齢者なら、レナは介護スタッフだな」

「よーし。じゃあ今晩、思いっ切り介護してあげる。もう寝かさないよー」

「よせ。サキュバスに責められたら、むしろ早死にするw」


 ――とかな。


 それに寿命が縮んだとはいえ、体は二十五歳のまま。正直、おいしそうな胸を前にして我慢できるほど、老けちゃあいない。レナと契約したために、徐々に精力絶倫にもなりつつあることだし。


 トリムの腕を外し、起こさないようにそっと立つと、部屋風呂でシャワーを使った。朝だからかトリムのせいかはわからんが、とりあえず硬くなってるな。みんなに気取られる前にひとりでなだめておくべきか迷っているところに、吉野さんがドアを開けた。


「一緒に入ってもいいよね」

「え、ええ……」

「寝汗かいちゃった」

「暖房強すぎましたかね」

「ちょっとね……。裸で寝てもいいくらいだった」

「なら今晩はもう少し下げましょう」


 なぜか微妙にもったいない気がしたことは内緒だ。


「ごめんね。狭いのに」


 入ってきた。


「いえ」


 さりげなく、体を横にして吉野さんの視線から下半身を外した。朝から大きくしてるの、なんと思われるか微妙だし。吉野さん、男の生理とか知らないからな。


 起きたばかりでコンタクトはしてないはずだから、あまり見えてはいないはず。気づかれてはいないと思うが……。


「雪国の朝って気持ちいいね。窓の外、随分積もってるわよ、きれいな雪が」


 大丈夫そうだ。


「風情ありますね」

「一面、まっしろだもんね。銀世界とは、よく言ったものだわ」


 栓を引いて、シャワーを出した。


「うん。ちょうどいい温度ね」


 銀色の湯に体を晒して……。


「ああ気持ちいい」


 吉野さんのみずみずしい体が、湯を弾く。


「吉野さんっ」

「あっ」


 こらえきれずに抱き着いた。吉野さんの胸が、目の前で揺れちゃあな。トリムの抱き枕攻撃で、本能に火が着いてるところだったし。タイミングが悪い……いやタイミングがいいのか。……まあどっちでも同じだ。


「な、なに」

「いいでしょ」


 体を抱きつつ、下半身を腿に押し付けた。


「ダメよ、こんなところで」


 なぜか俺が硬く、準備マックスになってたんで、驚いてるみたいだな。


「みんなにバレちゃう」

「平気ですよ。シャワーの音で紛れるから」

「でも、まだ朝だよ」

「だからいいんですよ。全員、寝てるし」


 首筋に唇を当てて吸うと、体を震わせ、小声で喘いだ。


「ダメ……。ここ……狭いし。……無理」


 息が荒くなっている。


「平気ですよ。ほら、後ろを向いて」

「後ろ?」

「ええ。壁に手を着いて」


 戸惑った様子ながらも、吉野さんは壁に手を着いた。


「こ、こう? ――あっ」


 俺は、後ろから思いっ切り貫いた。


          ●


 部屋での朝飯。例によってにぎやかなトリムやキラリンを横目に、吉野さんは言葉少なだった。あまりみんなと瞳を合わせないようにして。なんとなく頬が赤い。


 考えたら立ったまましたの――というか後ろからしたのもか、吉野さんとは初めてだったもんな。恥ずかしいんだろう。こっち方面には奥手だから。みんないるのに隠れるように関係を持ったのにも、微妙に罪悪感を持ってそうだし。


 残り香で気づいたに違いないタマは、素知らぬ顔で味噌汁などすすっている。気にもしてないんだろ。そういうキャラだし。


 レナにバレてるかはわからん。ただ頭のいい奴だし、吉野さんの気配で「なにかがあった」くらいは感じ取ってるはず。まあレナも特になにも言わず、普段どおりの態度ではあったが。


 考えてみたら、恋人同士の旅行なんだ。するのは当然ではあるしな。俺と吉野さんの場合、使い魔にキングーというコブ付きなだけで。




 そしてその朝、散歩に出た俺達は、「とてつもない大事件」(キラリン談)に遭遇する羽目になったんだ……。

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