1-5 アンドロギュノスの正体

「きれいな風景ですね」

「ああ。本当に」


 ここからは、冠雪した山々が遠景に見えている。しかもここバルコニーだから、ベランダと違って屋根がない。それを生かし、広いバルコニーには低木が数本植えられている。だから温泉の匂いに木々の香りが混ざって、とてもリラックスできるわ。


 俺とキングーは、並んで湯船に漬かっている。


「向こうの世界だとあんまり季節はないところが多いんですが、こっちは違うんですね」

「国……というか地域にもよるかな。日本は割と四季がはっきりしてる」


 場所によっては、乾季と雨季しか無かったりするしな。


「へえ……」


 キングーは、しばらく遠い山々をじっと見つめていた。それから、ふと俺に視線を移す。


「平さん」

「なんだい」

「少しだけ体、見せてもらえますか」

「体……」


 ちょっと驚いた。


「俺のか?」

「ええ。……駄目でしょうか」

「いや駄目とかそういう……」


 少し困惑した。


 男同士なら裸なんか毛ほどにも気にしないんだがな。一応客人だし半分女だから、タオルで腰を隠して湯船に入ってる。個室風呂だからな。湯船にタオルを入れても、別にマナー違反ではない。


 とはいえタオルを外すくらいならともかく、はっきり見せるとなるとなー……。


「お願いします」

「まあ……いいけど」


 ここまで頼まれちゃあな。見られるくらいなら、別にかまわんし。


「こんな感じでいいか」


 湯船に立ち上がって、横を向いた。キングーの顔の高さに、俺の下半身がある。


「うわ。大きい……」


 湯に波紋を広げながら、キングーが近づいてきた。


「これが普通の男ですよね」


 まじまじ覗き込んでくる。


「向こうの獣人とかは知らんが、こっちの世界の人間の男は、こんなもんだ」

「ちょっとだけ、触っていいですか」


 迷ったがまあいいか。どうせマリリン博士に一回抜かれてるし。もう汚れっちまったこの身の上w 今さらどうでもいいとは言える(泣)


「いいよ」

「はい。……うわ」


 細い指で、俺の謎棒を摘んで左右に動かしたりしてる。


「動く……」


 そりゃあな。


「ここ、ぶよぶよしてますね」

「そこは玉だ」

「何か中に硬いものが入ってます」

「男だからな」


 玉からまた棒に移った。あれこれ撫でたり触ったりする。


「形も奇妙ですね。ただの棒状でなく、先が矢の返しのように太くなってるし。……あっ動きました」

「あ、あんまり触るな」

「ここ、つるつるですね」


 先を撫でられた。


「大きくなりました」


 ぎゅっと握られた。


「か、硬い」

「もういいだろ」


 キングーの手を掴んでそっと外させると、湯船に沈んだ。あのままじゃ、おかしなことになるしな。


「おお。改めて漬かると、この湯、熱すぎずぬるすぎず、いい具合だな」


 源泉かけ流しで、湯のパイプの太さと長さを調節して、自然に適温になるようにしてるんだと。部屋に案内されたときに教えてもらったよ。


「……あんなになるんですね」


 キングーは、湯よりまだあっちが気になるようだが。


「それはさ、パートナーといろんなことを試すときに必要だからさ」

「僕も、ああなるんでしょうか」

「どうだろ……」


 たしかに、そこは謎だ。


「ちょっと見て下さい」


 止める間もなかった。立ち上がると、俺の前に下半身を突き出す。


「これ……どうでしょうか」

「どうって言われても……」


 そうは答えたものの、俺は、眼前の物体に目を奪われていた。


 たしかに付いてはいる。レナは小学生くらいの大きさとか言ってたが、見た感じ、それより小さい。小指の先くらいだ。太さも長さも。レナは自分が小さいから、大きめに見えたんだろうか。場所も、思っていたより下だ。


「……」


 なんと言っていいのか、わからなかった。褒めるところでもないだろう。気持ち悪いとかけなすなんて、論外だ。傷つけたくはない。


「きれいだよ、キングー」


 実際、白い肌で無毛だから、大理石の彫刻のように見える。


「触ってみて下さい」

「いや悪いし」

「平さんはさせてくれました。今度は僕の番です」

「ならまあ……」


 それに、マリリン博士チェックリストの件があるしな。キングーの体、いろいろ調べにゃならんのも確か。ならいい機会だろう。突然「お前の触らせろ」やるより、はるかに自然だし。


「触るけど、嫌だったらすぐ言えよ」

「はい。お願いします」


 そっと指で触れてみた。手触りは、俺なんかと同じだな。弾力があって。あと、形は包茎っぽくすんなりしているが、包茎ではなさそうだ。先が塞がっているし……。尿道口自体がないように思える。


「ちょっといじるぞ」


「それ」を、上に持ち上げてみた。


「あっ」


 キングーの体が震えた。


「痛いか」


 見上げると、キングーは瞳を閉じてじっとしている。


「平気です」


 それにしても、こいつは驚いた。謎棒の裏から、筋が下まで通っている。女子のように。こうなると、もう男とは全然構造が違う。


「ちょっと腰を掛けてくれ」

「はい」


 ヒノキのへりに腰を下ろす。


「少しこう壁に背をもたせ半分寝るようにして。それで足を開いて」

「わかりました」


 遠慮がちに開脚する。


 顔を近づけてよくよく見ると、筋の中に小さな穴がある。尿道口だろう。


「悪いな、キングー」


 そう断った上で、足をぐっと広げ、もっと大きく開かせた。


 尿道口の先はもっと大きく左右に裂け目が広がっていて、柔らかそうな、きれいな形の陥没があった。やはりアンドロギュノス、つまり両性具有だ。間違いはない。


「痛かったら言えよ」


 尻を広げるようにしてその先を覗き込むと、肛門が見えた。基本的に食事不要の存在でも、内臓はちゃんとしてるんだな。気分で飯食ったりはするから、当然かもしれないが。


 うん。全体の構造はわかった。あとは睾丸だな。レナの言う通り見た感じでは睾丸はないが、触診してみないと。


「もう少し触るぞ」

「遠慮しないで下さい」


 左右を押してみる。睾丸のような感触はない。ただ柔らかいだけだ。そのまま左右に広げるようにしてあれこれ調べていると、陥没の入り口がしっとりしてきた。


 あら……。


 見ると、小さな棒も勃起している。試しに摘んでみると硬く、こりこりしている。サイズこそ変わっていないが、これはやはり勃起と言っていいだろう。


「平さん……」


 苦しそうな声だ。


「悪かったな、キングー。もういいぞ」


 手を離した。


 キングーは荒い息をついている。足を閉じもしない。


「もっと……続けてもいいですよ」

「気持ち悪かったろ。ごめんな」

「いえ……いいんです」


 それきり、黙ってしまった。


 うん。これでチェックリストの項目、いくつかは埋められる。性交しろとか射精させて精液を保存しろとか、そのあたりの過激な奴は無理だが。


 でも不思議だ。チェックリスト見たとき「嫌だわ他人精液とか」……などと思ってたんだが、キングー、思ったより色っぽいし謎棒もかわいいだけだ。だから意外に俺、できちゃうかもしれない。そんな気がする。まあキングー、精液が出るかはわからんが。


 いずれにしろ俺、バイセクシュアルの気味あるのかもな。


 なんでも試してみるもんだな。世界が広がったよ。胸こそ膨らんではいるが、雰囲気は少年そのものだし、俺、ヘンな扉が開きそう。


「風呂漬かろうぜ。湯冷めしたろ」


 いつまでも動かないので、足を閉じさせてやった。


「はい……」


 くたくたっとしなだれかかるようにして、俺の首に手を回してきた。控えめな胸を感じる。当然かもしれんが柔らかいんだな、ちゃんと。


「ちょっと力が入らないので、起こして下さい」

「おう」


 抱えるようにして、湯船に移してやった。キングーは、俺の首に唇を付けるようにしている。


「ありがとうございました」


 湯船に沈むと、キングーは、ほっと息を吐いた。


「いいんだ。お前は別に変じゃない。ちょっと他人とは違うだけだ」

「そう……でしょうか」

「そうさ。違うってのは、『変』とは異なる。気にすんな。お前はお前だ。自信を持って生きろ」

「はい……。平さんに言ってもらえると、勇気が出ました」


 ようやく、キングーは笑みを浮かべてみせた。

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