1-4 混浴志願

 温泉旅館に来た。お茶とスイーツで旅の疲れも取った。――となると次は当然、「さっそく温泉でも」の番だ。エルフ耳だの尻尾だのがあるんで、ここはやはり部屋備え付けの家族露天風呂になる。


 いやここ家族風呂と言いながら、結構湯船広いぞ。さすがシニアスイートにアップグレードされただけあるわ。


 といっても全員で入るほどには大きくはない。それにトリムを洗ったり洗われたりするのは面倒なんで、順番ってことにした。ふた部屋の風呂同時に使えるから、それでもそれほど時間は掛からんだろ。


 風呂番以外はみんな、テーブルで茶とかビール飲んで談笑してる。部屋にビール山ほど持ってきてもらったし、トリム用のなんちゃってビールは道中で買って持ち込み、部屋の冷蔵庫に放り込んであるしな。


「平、お待たせー」


 向こうの部屋から、トリムとタマが戻ってきた。吉野さんは今、キラリンとこの部屋の風呂を使っている。残りは俺とレナとキングーだけだ。


「キングー、向こうの部屋の風呂、入ってきていいぞ。俺はレナと次、こっちで入るから」

「はい……」


 言ったものの、もじもじしている。


「あの……。ひとりは寂しいので、平さんと入りたいのですが」

「えっ、俺か」


 ちょっと驚いた。


「でもレナがひとりになるし……」


 テーブルに座り込んでずんだ餅と格闘していたレナが、俺を見て頷いた。目が怪しく輝いてやがる。


「……レナはいいみたいだな」


 まあろくなこと考えてないな、レナは。奇妙な笑みを浮かべてるし。


「駄目でしょうか……」


 見回すと、使い魔連中は誰も気にしてない。吉野さんは今風呂入ってるし、それに多分気にも留めないだろう。これまでも使い魔連中とは裸の付き合いをしてきたわけだし。


「ならまあいいか」


 それにマリリン博士に頼まれた、アンドロギュノスチェックリストの件がある。いずれ裸は見ないとならないし、ちょうどいい口実かもしれない。


「行くぞ、キングー」

「はい」


 嬉しそうに頷いた。


         ●


「平さん」


 向こうの部屋に入ると、キングーに袖を摘まれた。


「なんだ、キングー」

「平さんは、男は好きですか」

「ぶほっ」


 思わず咳き込んじゃったわ。


「いや、好きとかそういう話はないんだが……」


 自分でもなに言ってるかわからん。


「実は僕、男でも女でもないんです」


 真剣な瞳だ。適当に茶化すわけにはいかないな、これは。


「……なんとなく、そんな気はしてたよ」


 会ってさっそくタマが嗅ぎ分けたとかは、言わないでおいてあげる。微妙に性別のこと、気にしてる様子だしな。この言い方だと。


「僕、どっちつかずの体で恥ずかしくて……」


 瞳を伏せた。


「だから、会った人達には体を隠してきました」

「恥ずかしくはないだろ。生まれつきのものだし」

「そうなんですが……」

「母親は天使だしな。不思議な力を、お前は受け継いでいる。そんな関係もあるんじゃないか」

「かもしれませんね。……ありがとうございます。力づけてくれて」


 眩しそうに、俺を見上げた。


「だから恥ずかしいんですが……平さん……になら、見せてもいい気がするんです」

「そうか」

「あの、今、見てもらえますでしょうか」

「いいよ。どうせ風呂入るんだし」


 帯を解くと、浴衣を足元にすとんと落とす。白い体が現れた。


「どうでしょうか」


 第一印象は、きれいな裸だってことだけだ。肌がすべすべだし。


 胸は普通に女子だ。以前よりちょっと膨らんで、思春期女子の印象から、控えめ気味な女子高生くらいにはなってるし。


 たしかに胸はあるんだが、それでも全体に、線の細い少年の体を感じる。ガン見するのも変だから、下半身にはちらっと視線を飛ばしただけだが。


「……」


 キングーは、俺の言葉を待っている様子だ。


 どうしよ。なんて言えばいいんだ。きれいだよとかは、なんか違う。普通だよだと、嘘になる。


「特におかしくはないかな。きれいに整った体型をしてるし」

「……ありがとうございます」


 このままじっと見続けるのも、おかしい。


「まあ風呂入ろうや。体が冷えちまうぞ」

「はい」


 秒速で浴衣を放り出すと、先にバルコニーへと出た。

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