ep-2 ドワーフ族長ナブーの感慨
「平殿。あんたらには、本当にお世話になった」
族長ナブーは、感慨深げな声を出した。
無事ドワーフの手に戻った地下迷宮で、俺の手をがっしり握って。
「おかげで、ようやく王や仲間の
「お役に立てて良かったです」
吉野さんが微笑んだ。
「平殿。あんた、頭に酷い怪我をしておる。手当てをせんとな。……今、医者を呼ぶ」
「大丈夫だ」
タマが割って入ってきた。
「平ボスは、今晩あたしがじっくり、つきっきりで舐めて治す」
「そうか……。ケットシーの治療なら安心じゃ」
瞳を緩めた。
「みんな、忙しそうだねーっ」
俺の胸から、レナが身を乗り出した。
たしかに。
族長の背後では、ドワーフ連中が忙しそうに働いている。
「まあ、ドワーフにしては働き者が多いみたいね」
つんと横を向いたまま、トリムが呟いた。精一杯褒めているつもりかもしれん。
「あんたこそ、エルフにしては親切になったのう」
「あたし、元から親切だし」
憤慨してるな。
「それにエルフじゃなくてハイエルフだし」
「ああ。そうじゃったそうじゃった。……これはすまん」
族長は苦笑いしている。
「この調子なら、すぐにでもここは復興するだろう」
タマが冷静に分析する。
「族長、これを……」
誰かが族長に、
「おお。忘れるわけにはいかないものな。ほれ、平殿」
族長は、俺に持たせてくれた。ずっしり重い。
「お望みのアイテム。延寿の秘法を施した、歴史以前の、超古代の遺物が入っておる」
「あなた方が延寿の秘法を施したアイテムですね」
「そうじゃ」
頷いている。
「前も話したじゃろう。わしらは『
歴史以前の産物と思われる、謎の物体。ドワーフがここ地下迷宮の奥深くで掘り出した、握りこぶしくらいの大きさのマジックアイテムだ。
古今東西、あらゆる工芸品と鉱物に通じたドワーフが鑑定しても、加工法どころか素材すらわからなかったとかいう奴。
それでも先祖伝来の呪力で、謎の物体の持つ潜在能力を読み取り、とある秘法を施せると看破した。延寿の秘法を。
延寿の秘法を施された「鉱山神の魂」は、国王の代替わりの際、新国王に延寿を施すべく、地下迷宮に祀られていた。だが冥王ハーデスによりドワーフ王の血が絶えた今、ドワーフにとって、どうしても必要な品ではなくなっている。
「『鉱山神の魂』は、どう使えばいいでしょうか」
「延寿を願うなら、中身を握り、祈るのだ。それだけでいい」
「はい」
なんだ簡単だな。もっとなんかこう、ど痛い「血の儀式」的なのが必要かもとビビってたんだが。
「ただ、一度しか使えん。間違えて使うでないぞ」
「わかりました」
「わしらが先祖から受け継いだ延寿の秘法は、こうしたアーティファクト経由でないと使えんのじゃ」
難しい顔で、髭をいじっている。
「あんたらのために、今後また必要な遺物を掘り当てたら、保管しておいてやろう。時折、顔を出すがよろしかろう。いつでも歓迎する」
「ありがとうございます」
そいつは助かる。このアイテムでどのくらい寿命が延ばせるのか、さっぱりわからないからな。五十年分回復するには多分だが、もっともっと延寿の秘法が必要だろうし。
「あと、チェインメイルやマジックトーチは、そのまま持っていてくだされ」
「えっ」
トリムが叫んだ。
「でもこれ、貴重なミスリルの……」
目を見開いて絶句している。そりゃ、ミスリル製の武具を百も入手すると、国が傾くとかいう話だったしな。トリムが驚くのは当然かも。
「いいんですか、こんな大事なものを頂いて」
吉野さんが腕を上げて、チェインメイルを示してみせた。
「構わん。こんなものはの、また造ればいいのじゃ。わしらは誇り高きドワーフじゃ。鉱石など、いくらでも掘り出せる。ドワーフの恩人に礼を尽くさなかったとなれば、亡き王の魂に申し開きが立たんからのう」
「ありがとうございます」
「さて、今宵は大宴会じゃ。平殿も参加してくれるじゃろうな」
「はい……。ただ、一度おいとましてからでいいですか。せっかくいただいた貴重なアイテムは、安全な場所に移しておきたいので」
「当然じゃな」
族長ナブーは頷いた。
「では夜、参られよ。皆の席を用意して待っておるからな」
俺が礼を言うと、族長はキングーに瞳を向けた。
「それにしてもキングー殿。最後に会ってからかなり経つが、随分雰囲気が変わったのう……」
「……はい」
キングーは、俺の後ろに控えめに立っている。ナブーの視線を受けると恥ずかしそうに、胸を手で覆った。
「ここに滞在しておった頃は、どう見ても男だったのに」
「自分でも、よくわかりません」
消え入りそうな声だ。
「やはり、天使の子は不思議な存在だのう……」
ひとつほっと息を吐くと、再度頭を下げた。
「ではわしは仕事に戻る。今宵、皆を待っておるぞ」
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