5-9 沙漠装備検討会議>からの謎風呂

「買いに行きますか、吉野さん。いろんな装備を」

「そうね。私や平くん、トリムちゃんの沙漠踏破用衣服と靴。あと水ボトルやなんやかやも必要ね」


 さすが吉野さん。てきぱきしてて段取りがいいな。有能マネジャーだけあるわ。


「……それと沙漠向きの靴は、タマちゃんの分も一応」

「戦闘のときに邪魔にならない靴でお願いします、ふみえボス」

「それならいっそ、安全靴にするか。爪先に鉄か硬い樹脂の入った奴。底を選べば、沙漠でも歩きやすいし、モンスターがポップアップしたときでも蹴りの威力がむしろ増すし」

「タマちゃんなら体力あるから、多少靴が重くても問題ないしね」

「幸い、シルバーウイークだから有給込みで九日間休み取ってるし、明日みんなで買いに行こう。靴選ぶんで、タマとトリムにはまた化けてもらって」

「いいわね」

「あとキラリン、お前も来いよ」

「あたしも?」


 ケーキ退治に夢中になっていたキラリンが、意外そうに顔を上げた。


「ああそうさ。お前、こっちの世界では自由に存在できるんだし。そのJK制服みたいなので俺のアパートに出入りされて、ヘンな噂が立ってもまずいからな」


 児ポ通報とかされて警察やら児童相談所やらが押しかけてきたら、いろいろ面倒だ。異世界でどうとかとか使い魔だからこうとかとか、そもそも元が機械で云々とか、説明するだけで疲弊しそうだし。


「ヘンな噂とかないでしょ。お兄ちゃんの部屋に、嫁が出入りしているだけだし」

「そんな訳わからん説明を警察にされたら、余計に大混乱になるわw」

「そんなもんかな」

「決まってんだろ。……念のため、普段着みたいな奴をいろいろ買ってやるよ。下着だっているだろ、何枚か」

「わあ、嬉しい。さすがお兄ちゃん。妹思いのご――」

「もうそれいいから。警察どころか、俺まで混乱する」

「じゃあ話は決まったね、平。そろそろお風呂にしよーっ」


 ガバッ!


「服が邪魔ー」


 おもむろに立ち上がると、トリムの奴、瞬時に服を脱いだ。慣れてきて脱ぎ方速くなってるわw 吉野さんに揃えてもらった部屋着と一緒にブラトップのインナーまで一気に脱ぐ、必殺脱衣法まで身に付けてるし。


 まあやるとは思ってた。なんちゃってビール、結構飲んでたからなー。


 知らんが、エルフってみんな酔うと脱ぎ癖あるんだろうか。なら王立図書館長ヴェーダじゃないけど、エルフの里ってのにも早く行ってみたいもんだわw


「ほら行こうよ、吉野さん」


 吉野さんの腕を取る。


「あ、あたしも?」

「今日は吉野さんとタマがいるし、平は背中流してくれなくていいよ。吉野さんに頼むから。あたしたちが終わったら、平とレナ、キラリンが入ればいい。三人ずつだよ」


 いや勝手に仕切ってるし。鍋奉行ならぬ、風呂奉行だな。


「わあ、あたしとお兄ちゃん、初夜だね」


 恥ずかしがってるのか知らんが、キラリンが身をくねくねする。てか初夜ってなんだよw ただの風呂だろ。


「いや、キラリンも一緒に入れてもらえ。それが女湯だ。みんなが終わったら、俺はレナと入る。男湯+妖精湯だ」

「サキュバスだから女じゃん。ならあたしも入っていいでしょ」


 キラリンが口を尖らせる。


「小さいから妖精みたいなもんだろ。ほら早く入ってこい。もうトリムとタマは風呂場に行ったぞ」

「でもぉ……。嫁として――」

「ほらほら立って。すみません吉野さん、こいつ連れてって下さい」


 キラリンの背中を押す。


「そうね。ほら、行きましょ、キラリンちゃん」

「でも初夜の決まりでは――」


 なんかまだぶつぶつ言いながらも、吉野さんに手を引かれていったか。どこで仕入れた、その謎決まり。


 はあー疲れるわ、こんなん。まあトリムを洗わせさせられる拷問がなくなった分だけ、今日はまだマシだが。


「ねえご主人様――」

「ストップだレナ。それ以上、今晩なら全員とどうとか言うなよ」

「へへっ」


 テーブルの上から、レナが見上げてきた。


「ボクが言おうとしたこと、よくわかるね」

「そりゃ、お前とも付き合い長いからな。なに考えてるかは一目瞭然だわ」

「ならまあ、今晩は勘弁してあげるよ。どうせボクは、夜中にご主人様の夢にも出られるし」

「今日はそれも無しにしようぜ。万万が一にでも、夢であれこれして勃起してる姿、吉野さんに見られたら困る」

「吉野さんがそんなのガン見するわけないじゃん」

「でもなあ、今日は布団並べて雑魚寝だ。多分俺の隣は吉野さんとタマだし。お前を間に挟むにせよ、トイレに立ったときにでも謎テント見られる」


 いくら彼氏彼女の仲になったとはいえ、まだ初々しいからなー。吉野さん、男の生理、全然知らないし。


「目が悪くてぼんやりとしか見えないからね、吉野さん。確かめようと手を伸ばしてきて握っちゃうかもね」

「その瞬間、暴発したらどうする」

「ぷぷっ。夢でしてる最中だし、充分有り得るね、ご主人様」

「だろ。そうなったら大惨事だ。みんな起きてくるだろうし。灯りつけて煌々としてる中、みんなに見られながらティッシュかタオルでひとりフキフキするとか、どんな地獄だよ」

「ならまあ、今日は我慢するか。……その代わり、お風呂場でボク、大きくなろうかな」

「はあ?」

「だあってぇ」


 背中に腕を回して、身悶えしてるな。


「ご主人様とリアルでエッチなことしたの、吉野さんと一緒だった、あの一晩だけだし。いつも夢でするからそれでもいいんだけど、今晩できないなら、ねっ」

「みんなにバレるだろ」

「ボク、我慢して声出さないようにするからさ。ねっ一回だけでいいよ。お湯の中でしなければ、後処理も問題ないでしょ」

「いや、気配で気づかれるだろ」

「平気平気ーっ。決まりだよ、ご主人様」


 勝手に決めて満足そうに頷いてやがる。トリムの風呂奉行に続き、エッチ奉行かよ。俺の、使い手の威厳ってのがな。


 そう感じたが、レナはもう知らん顔で、ザッハトルテの残りなどもぐもぐ食べてるな。


 ……まあいいか。仲間の希望を叶えてやるのも、パーティーリーダーの務めだ。それに考えたら吉野さんと寝るだけで俺のほうが興奮しちゃいそうだし、今のうちに謎棒をなだめておくのも、ありっちゃありだし。


 レナとはここ吉野さんの家で、すでに一度関係持ってるしな。しかも吉野さんと一緒に。その意味では、今さら吉野さんに悪いって仲でもない。


 まああんときゃ全員処女童貞という、謎3Pだったわけだが……。


「お待たせー」


 吉野さんたちが風呂を終えて出てきた。もうすっかり髪も乾かして、新しい部屋着に着替えて。風呂で寛いだ体は、ほのかに色づいている。


「平くん。お湯、張ったままだけど、いいよね」

「大丈夫だよ、吉野さん。ボクたちお湯汚したりしないから。外でするもん」


 こいつ……。


「最初に体洗ってから入るって意味です。吉野さん」

「そうそう。もう全身、なんなら体の中まで激しく洗うから。むぐーっ」


 レナの口を指で塞ぐとそそくさと、俺は風呂場へと向かった。




●次話から新章!

「ドワーフの地下迷宮」に向け旅立つ平と吉野さん。失われた三支族の隠れ村。不気味に広がる地下迷宮に、延寿の秘法を求め踏み込んだ平パーティー。その前に、とんでもない謎と敵が立ち塞がる……。乞うご期待!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る