4-13 使い魔キラリンの消滅

「なんとかなったわね」


 天使イシスが消えると、吉野さんがほっと息を吐いた。


「あとはキングーにこの珠を戻せばいい。……でしょ、平くん」

「はい。……ところでキラリン」

「なに、お兄ちゃん」

「お前、サタンが追われてるとか、その手の事情、知らなかったのかよ」

「知ってるわけないじゃん」


 けろっとしてるな。


「でもお前の画面に表示されたんだぞ。サタンとかの説明」

「知らないよ。あたし、パラメーターマッチングで選択された使い魔候補を、ただ表示するだけだし」

「それにしては自分の評価ってか謎情報、付け加えてたけどな。『あんたには無理無理』とか」

「それはその……」


 視線を逸らし地面をとんとんつま先で叩いて、なぜか照れてやがる。


「そのくらいの裁量は、一応博士からもらってるしさ」


 余計な情報ばっかだったけどさ。


「でも、おかげで助かったでしょ。あたしという、かわいい妹を選べたんだから」

「まあ、そういうことにしといてやるよ」


 これ以上なんか言っても、疲れるばかりだからな。


「さて、じゃあ帰還しますか、お兄ちゃん……って」


 急に、目がとろんとなった。


「どうした」

「お兄ちゃん、あたし……眠いかも」

「はあ? どうしてだよ。まだ昼間だぞ」

「どうしようもなく眠い。あー……」


 口をがばっと開いて、おおあくび。涙まで浮かんだじゃん。相当眠いな、これ。


 ……てか、そうか!


 アレ博士マリリンの顔が、頭に浮かんだわ。


「お前、もしかして謎スマホの姿に戻るのか」

「た……多分」


 マリリン博士には、そんな話聞いてたからな。でもまだ、スマホから召喚して数時間も経ってないぞ。


「ご主人様、キラリンがいないと、地上に戻れないよ」


 レナも焦ってるな。


「寝るな。とりあえず今すぐ、俺達を地上に送るんだ」

「ふ、ふゎい。キ、キラリンキラリンーっ、みんなを地上に――ぐーっ」


 いやまだ途中だし。いびきかくなw


「ゴーン……ゴーン」


 例の謎除夜の鐘が鳴り響くと同時に、キラリンの姿は、ぼんっと消え去った。


「キラリンっ!」


 見回してもいない。


「平ボス、足元だ」


 タマに言われて見ると、足元に謎スマホが落ちてたわ。


 拾い上げて確認してみた。どうやら、謎スマホとしては普通に使えるみたいだな。


「どうしよ、これ」

「寝ちゃうとどうなるの、平くん」

「いえ吉野さん、俺もよく知らないんですが、当分この姿のままで、すぐには召喚できないみたいなんです」

「困ったわねえ……」


 頬に手を置いて眉を寄せている。


「いや俺も、こんなにすぐ寝ちゃうとは思わなかったんで」


 普通に一日くらいは起きてられると思ってたんだがなー。


「ねえご主人様、念のため使い魔召喚モードを出してみたら」


 レナが、俺の手の謎スマホを叩いた。


「次いつ呼べるか、情報出てるかもよ」

「なるほど。それはあるかもな」


 起動だ、起動。




――第二次使い魔候補――


グレーターデーモン

サタン

モバイルデバイス(結婚済み)




「おいおいwww」


 いやそこはレナやトリムと同じで「契約済み」だろ。なんだよ「結婚済み」とか。キラリンいい加減にしろ(怒)


 続いて、モバイルデバイスの個別説明を読んでみた。




――モバイルデバイス――


 ものすごくかわいい娘でスタイル抜群。性格も良く料理上手で、いい妹になるって博士が太鼓判押してる。えっ? お嫁さん? それは……えへへ。


 能力は万能型で、戦闘・探索の友として最適。おまけにアプリ追加で機能拡充も可能。異世界への往来が通路無関係に開放されるだけでなく、移動・戦闘面でのバフ効果だってあたし持ってるし。


 今ちょっと寝てるけど、もうすぐ起きるからさあ……。起きられそうなら教えるね、お兄ちゃん❤ エッチなことは、そのときね❤




「機種依存文字、増えてるじゃん」


 機種依存文字を表示するのは大変だとか愚痴ってたくせにな。結婚……いや契約したせいか、文の中身も「アレ度」が激アップしてるし。


「うーん。ダメかあ……」


 俺の胸で、レナは溜息を漏らした。たしかに読む限り、再召喚はやっぱり当面無理そうではある。


「がっかりするな、レナ。きっと手はまだある」

「そうだよね、ご主人様。ボクも考えるよ」


 いつも前向きなレナに戻って笑っている。


「例のキングーの珠使えないかな」


 トリムが提案してきた。


「あれで地上に戻れるとか」

「なるほど。その手はあるかもな」


 念のため珠を握ってお願いしてみたが、やっぱり無駄だった。


「……ダメだわ」

「どうしよう……」


 みんな、割と深刻な顔をしている。そりゃあな、天国に来られたと言えば聞こえはいいが、こんな寂しい場所だしなあ。それにここにいても腹は空くだろうし。キラリンが数時間で再召喚できればいいが、一週間は無理とかなると、俺達遭難死するじゃん。


「ご安心ください」


 どこからともなく、声が響いた。例によって脳内に。天使イシスだろう。


「戻すだけなら、わたくしがお手伝いします。……我が子キングーの側でいいですね」

「はい。お願いします」


 答えるとすぐ俺達の体を、金色のきりが包んだ。

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