4-9 天国か地獄か。それとも……

「ただ、お兄ちゃんにはあたしを抱いてもらわないとね。それでないと機能が発現しないから」


 俺の第四の使い魔、キラリンは、あっけらかんとしている。


「はあ?」


 抱くったって、いろんな意味がある。どういうニュアンスで使ってるんだ、この新使い魔。


 嫁嫁言ってるから、もしかしてエッチなことしろってか? 初夜だとかなんとか戯言たわごと抜かして。


 この場所は山裾。青姦ってことになる。おまけに、みんなが見てる。レナと契約して絶倫になったとはいえ、正直、俺がその気になれるとは思えない。いくら天国に行くためとはいえ。


「お前……キラリンと、スキンタッチするってことか」


 とりあえず無難なほうから聞く。


「というか、こうやってえ」


 ぐんと背中を押し付けると、後ろ手に俺の腕を掴んだ。


「手を回してぇ……」


 胸を掴ませようとする。


「ちょっと待て」


 とりあえず体を離す。いちばんヤバい意味じゃなかったのは幸いだが、それでもいきなり胸揉めとか、痴女かよ。


「後ろから体を抱き締めろってことか」

「そうそう。わかりが早いじゃない。さすがお兄ちゃん」

「そうしないと天に上れないと」

「密着しないとねー」


 それなら仕方ないか。とか思わず納得しそうになったが、いやちょっと待てよ。


「みんなはどうするんだよ」

「大丈夫、範囲で連れてけるから」


 やっぱりじゃんか。おかしいと思ったんだわ。


「なら俺も同じだろ。別にくっつかなくたって」

「ちっ」


 振り返って俺を見た。


「なんで気が付くかなあ、お兄ちゃん」

「いや、アホでもわかるだろ。なんでヘンな嘘ついた」

「だあってえ……」


 グレイジャケットのなんちゃって女子学生制服姿で、体をくねくねした。短いプリーツスカートが揺れる。


「ラブラブお嫁さんは、いちゃこらデフォでしょ」

「知らんがな」


 思わず笑っちゃったよ。


「そもそもお前、キラリンは嫁でも妹でもないし」

「でもあたしを召喚したんだから、責任取って嫁&妹にしてもらわないとねー」


 頭が痛くなってきた。やっぱどこか壊れてるわ、この娘。


 それからも怒涛の漫才展開があったんだが、省く。とにかくなんとか、普通に天に連れてかせることを納得させた。疲れたwww


 みんなも呆れた様子だったが、とにかく天に上るまでは揉めたくないって感じで、あんまり口を挟んでこなかったよ。


「じゃあ行こうか」

「仕方ない。お兄ちゃんの頼みだもんね。……抱いてくれたらいいのに、ケチ」


 諦め悪いなあ……。


 まあとにかく、俺とパーティーを円にさせると、キラリンは中心に陣取った。ようやくやる気になったみたいだ。


「ちょっと待て、キラリン。……なあレナ」

「なあに、ご主人様」


 いつもどおり胸に陣取るレナが、俺を見上げた。


「天国と聞くと平和に響くが、俺達が出現した途端、天の軍勢みたいなのに攻撃される恐れはないかな」

「うーん……。ないとは思うけど。タマはどう思う?」


 珍しく、レナは自信なさげだ。


「天国から戻ったなんて奴は皆無。だから正直わからない。……ただ天は光の存在だから、敵対者と思われなければ大丈夫な気はする」

「平、あたしもタマと同じ意見かな。……まあいきなり近接戦にならない限り、あたしが弓矢で牽制するくらいはできる」


 背中の矢筒を、トリムは叩いてみせた。


「とはいえ、天の軍勢ってあるかわからないけど、もしあったとしたら強いはず。だから正面から戦うのは反対。牽制している間に元の世界に逃げるべきかな」

「平くん、念のため、警戒しつつ転送されましょう」

「そうですね、吉野さん。俺もそれがいいと思います」


 パーティーを見回した。


「みんないいな。なにが起こっても対処できるよう、心の準備をしておけ。ヤバそうなら俺が合図するから、キラリンはすぐに逆転位させるんだ。……できるだろ」

「楽勝だよ、お兄ちゃん」

「んじゃあ頼むわ」

「わかった。みんな、踏ん張っておいてよねっ。転送するとき足場が変わる可能性あるから」


 謎制服姿で、手を上げた。


「キラリンキラリンーっ。みんなを天国に連れていけーっ!」


 キラリンって名前結構気に入ってるみたいだな。なんか踊りながら、呪文風に連呼してるし。




「ゴーン……ゴーン……」




 魔法少女っぽい謎呪文+謎踊りなのに、除夜の鐘。ミスマッチ感凄いわwww


 思わず噴き出しそうになったが、笑うより先にくらっときた。めまいがして貧血のときのように視野が一瞬青く抜けた。


 と思うまもなく、俺達は、見慣れぬ風景の中に立っていた。


「なんだ、ここ……」


 俺達は、白いもやで包まれている。もう五メートル先すら霞んでいて見えないくらい。周囲と言わず天と言わず、そんな感じ。


「なんにも見えないよ、ご主人様」


 レナの声も緊張している。


「ここが天……。いやここ、地獄だろ。どう考えても」


 天国のイメージと、あまりにも違いすぎる。ここ異世界は、人類の妄想から生じた世界。天国だって、人類の「天国」妄想の延長線上になければおかしい。


「どうする、平くん」


 吉野さんも困惑している様子。


 マジ実際、俺達この謎空間で、どうやって動けばいいんだろう……。

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