4-7 アレ博士マリリンの暴走で俺の貞操が危ういw
「精子採取って……どういう」
「どうもこうも、そんなの決まってるでしょ。これよ」
手術用手袋をした右手を握ると、マリリン博士は上下に動かしてみせた。えげつない。
「こんな魚臭い倉庫で、立つわけないだろ」
手を拡げて、俺は周囲を指してみせた。寒々と殺風景な、元水産倉庫を。エロい気分になる雰囲気もへったくれもない。
「仕方ないなあ……」
溜息と共に立ち上がると、マリリン博士は白衣を脱いだ。白シャツにチェックのプリーツスカート、グレイのブレザー。ビジネススーツと言えなくもないが、プリーツスカートが謎。そのせいで中学生の制服姿といった出で立ちになってる。微乳だし。
「あたしも全部脱いたげるからさ。男って、裸見たら自動的に興奮するんでしょ」
「できるかっ」
「できるでしょ。はい、しこーしこー♪」
謎歌を歌いながらジャケットを脱いだ。シャツに包まれた微乳の形がはっきりする。
「お前いくつだよ。恥ずかしくないのか」
「恥ずかしくはないね。だってこれも科学進歩のためだもん。あたしの犠牲くらい、人類のためなら、なんてことないわ」
シャツのボタンを外し始めた。
「俺の犠牲だろ、そこは」
「あたしだって裸見られるし」
「とりあえず止めてくれ」
ボタン三つめに取り掛かってた腕を掴んだ。
「それより聞かせろよ。なんでそもそも、いきなり精子なんか――」
「あんたの妄想力は人類の宝だからさ。あんたの精子とあたしの卵子使って、培養ホムンクルス作るから」
「ふざけんな」
ホムンクルスwww それ人造人間のことだろ。フランケンシュタイン博士かよ。想像以上にイッてるわ、この人。
「それよりIデバイスどうしたらいいか教えろよ」
「ちぇーっケチ。いいじゃないねえ、減るもんじゃなし」
なんかぶつぶつ文句言いながらも、手袋外したわ。
とりあえず貞操の危機は脱したかw
それにしても、さすが隔離されてるだけあるな。マリリン博士。ぶっ飛んでるわ。
なんたって開発部の主務からははるかに離れた業務だしなー。この魚臭いI分室は、異世界案件受注のために設けられた新設部署。
商社たる三木本商事の開発部は、普通に社内システムの面倒を見たり、金属資源探査用のシステムを開発して外販したりするのが本来の業務だ。
そもそも異世界通路を発見し、国の調査に協力していた天才科学者を、三顧の礼でシニアフェローとして迎えて、この分室を作ったってわけさ。元が水産倉庫だけに、コストは安いからな。
商社に不釣り合いな謎研究部署を作ったのは、もちろん受注のため。たかが数千万の投資で年数億かそこら補助金がもらえるんだから、実際、安いもんだろ。
「まあいいか。……チャンスはまたあるし」
愚痴りながら、マリリン博士は、シャツのボタンを留め始めた。ちらちら見えてたかわいい下着が隠れて、ほっとしたわ。どこの児ポ案件かと思った。
「今度コーヒーに睡眠薬と催淫剤入れとけばいいんだし。寝かせちまえばこっちのもんだわ。念のため、エッチなジェルも仕入れとくか。……いやシリコングリスかモリブデングリスで代用できるかな。それならここに大量にあるから」
不吉な独り言、丸聞こえなんですが、それはw
「なんか言ったか?」
「いえなんにも。おほほ」
てかモリブデングリスなんか、謎棒に塗りたくられてたまるか。俺は工作機械じゃねえ。
「で、デバイスは?」
「うるさいなあ……」
俺に聞こえるくらい大きな溜息をついた。
「壊れてないから大丈夫。使い魔としても召喚できる。勝手にあたしの名前出して料理がどうとかいう
なんか投げやりだ。精子採取できなくなって、どうでもよくなったのかもしれない。
「サタンは使役できるでしょうか、俺」
「契約次第ね。天才のあたしなら騙されないから大丈夫だけど、あんたは……」
足の先まで、俺を眺め渡した。
「止めといたほうがいいかも。死にたくなければ」
「やっぱそうですか」
「それよりなんで使い魔、足したいのよ。ヤバいと思うなら、Iデバイスだろうがサタンだろうが、召喚しなきゃいいだけでしょ」
「実は異世界には天国があるらしいんです」
「ほう……」
身を乗り出してきた。
「それは興味あるわ。……話して、ほら、早く」
「ええ。実は――」
時間を掛けて、俺はすべてを説明した。仕事の成り行き上、天国に上って天使と会わなければならないと。
「その天使の亜人ってのも調べてみたいわあ。なんせアンドロギュノス、つまり両性具有は、人類でも極めて稀。あたしも実験動物にしたことないし」
瞳がきらきら輝いてるな。それにしても人間を実験動物扱いとか、さすがアレ科学者だけあるわ。
「ねえ、そのキングーとかいうアンドロギュノスの精子と卵子、採ってきてくれない。お礼はするからさ」
「はあ?」
とんでもないこと言うなあ、この中坊(かは知らんが)。
「どうやって採取するんだよ、そんなん」
「簡単でしょ。あんたが体を差し出せば、両方採れるじゃん。卵子を吸着するコンドーム作ったげるからさ。楽勝よ」
「無理」
卵子採取はそりゃ、その謎コンドームで可能かもしれないけどさ(俺が立ってキングーがその気になればな)。精子採取は無茶。なにが悲しゅうて俺がキングーにケツ掘られにゃあかんのだ。謎カップリングやめれ。
「それより天国への行き方でもいいんです。博士天才でしょ。なにかわかりませんか」
「天国ねえ……」
くるっと椅子を回すと、またPCに向かった。なにか高速に入力する。
「うーん……。異世界には上位世界と上位存在が実在するってことね。……ってことは、天使だけじゃなくて、神様もいるかも。それにサタンがいるってことは、魔界と下位存在の実在も、まず確実か……。ここはひとつ、
「天国への行き方っ」
「わかってるって」
呆れたように俺を見た。
「平くん、あんた気が短いねえ。溜まってるんじゃないの。やっぱりあたしが抜いたげるよ」
マリリン博士は、またぞろ手を動かしてみせた。
「なんなら特別に、口で手伝ってあげてもいいけど。あたしも味に興味があるから。成分的に核酸がどういう――」
「遠慮します」
「体はダメよ。ホムンクルスのために処女散らすのは、さすがにあたしも嫌だし」
「こちらからもお断りします」
「冷たいなあ……」
椅子にぐっと体をもたせかけて、眉を寄せている。
「そんなんじゃ彼女できないよ」
余計なお世話だ(怒)
「天国か……。平くん、普通に行ける場所じゃないからねえ……。一番いいのはやはり、Iデバイスを召喚して、連れてってもらうことかな」
「できるんですか」
「多分。……念のため今、アプリで機能追加しといたから。上位存在を感知する機能」
「なるほど」
希望は持てるな。
「ただ気を付けてね」
「なにがです」
「使い魔召喚ってのはさ、まず召喚主の人格パラメーターを読み込むのよ。それに見合った個体が選択され、モンスターの棲息地から召喚されるわけ。つまり召喚前と後とで、モンスターの本質に違いはない」
「知ってます」
マッピング事業に配属された最初に、開発部の社員からそんなような講釈を聞いたわ。あの嫌味な担当者からな。どうせ俺が理解できないだろうと思ってか、えらい早口で。さっさと仕事を済ませたいって雰囲気丸出しだったから、印象悪かったわ。
「ところがこの娘は全然違う。なんたって元はモンスターじゃなくて機械だからね。体構成からなにから全部変わっちゃう。……だからエネルギー源が違うというか」
「はあ……。モンスターは飯食うところ、こいつは充電するとかですか」
「いや、使い魔として受肉するから、普通にご飯は食べるとは思うんだけどさ。ただエネルギー切れで、普通の使い魔のように常時存在するのは多分厳しくて、ときどきこれに――」
謎スマホを振ってみせた。
「この姿に戻ると思うのよね。こっちの世界では大丈夫なはずだけど、あっちの世界だと」
「なるほど」
「戻るタイミングは、この娘自身にも選べない。……もちろんあんたにも」
「じゃあ、ここぞというとき消えちゃう可能性があるってことですね」
「そう。割とすぐ戻ると思う。だから気を付けてってわけ」
「わかりました」
プラスひとりが、プラマイゼロに戻るだけ。これまでは「なし」で行動できてたんだから、たいした問題ではないだろう。
「それと、あとひとつ」
マリリン博士は、俺に謎スマホを手渡した。
「説明の文面からわかると思うけど、この娘、ちょっと変人みたいだからさ。うまくコントロールしてあげてよね。でないと暴走するかも」
「はあ……」
いやあんたに変人言われたくないだろ、この使い魔も――と、口まで出かかったが我慢した。俺、偉いな。後で吉野さんにイイコイイコしてもらうか。
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