2-11 天国への階段

「まいったなーマジで」


 みんながいなくなったジャグジーで、俺は愚痴った。みんないないとは言っても、レナだけはいつもどおり俺の胸だが。


「ご主人様。よく我慢したよね。ぷぷっ」

「まあなー」


 結局、いつもどおり胸まで洗わさせられた上に、トリムが俺の謎棒まで洗いやがった。ギンギンの奴をな。


 あいつ、あれなんだと思ってるんだろうな。男ならではの物体で、風呂に入るとなぜか自動的に硬くなるとは、最近では理解してるみたいだ。とはいえ、どう使うのかは知らないように思える。でなきゃあんなに無邪気に握ったりしないだろ。泡の中だから誰にもバレなかったとは思うが、もし暴発したらえらいことになってたわ。


「ねえ平、早く来なよ。平が来ないと、なんちゃってビール飲めないでしょ」


 酒を並べたテーブルで、トリムが手を振ってる。吉野さんが用意してた部屋着に着替えてるな。


「わかったから待ってろ。俺はもうちょっと風呂を楽しみたい」

「長湯なんだから、もう。……いつもは全然そんなことないのに」


 余計なお世話だくそっ。こっちはトリムのせいでジャグジーから出られないってのに。のんきな野郎だわ、まったくよう。


「まだ反り返ってるねー」


 湯に潜って確認してきたレナが、なんやら知らんが喜んでるな。


「レナのせいでもあるぞ」

「なんで? ボクなにもしてないでしょ。ご主人様が吉野さんやトリムといちゃついてるときだって、触りもしなかったし」

「いちゃついてないだろ。三助やらされてただけで」

「吉野さんは? なんか息荒かったけど」

「うるさい」


 泡の音で誤魔化せてたはずだが、やっぱレナだけには気づかれてたかw


「レナのせいってのはだな。お前と使い魔契約してからこっち、俺の謎棒、コントロール不能というか、どんどん強くなっちゃってるんだわ」


 実際、まだ全然収まらないし。普通、とっくに興奮醒めててもいいだろ。トリムに触られてから、もう三十分は経ってるってのに。


「そりゃ、ボクはサキュバスだもの。当然だよ。ボクと契約したら、どんどん強くなるんだよ。ご主人様なんか、まだまだ序の口だからねっ」

「序の口? 俺もっと絶倫になるのか?」

「まあね。多分二十四時間だってエッチなこと続けられるようになるよ」

「カンベンしろよ。そんなん俺だって気味悪いし」


 今でも持て余し気味なのに。俺、心底そういう方面には向いてないわ。やりまくりたいとか全然思わないし。吉野さんとイチャラブできてたら、それだけでいいんだ。


「平くん、本当に長湯好きなのね」


 心配したのか、吉野さんまで声かけてきた。


「もうすぐ出ます」


 はあーっ……。


 もう俺、このまま出るぞw 勃起したまま部屋に乱入してやろうか、ほんとにもうっ(怒)


「ねえご主人様」


 にやけてるな、レナの奴。レナがこの顔するときは、ろくなこと考えてないからなあ……。


「無理して収めなくていいんじゃないの、興奮」

「なんでだよ」

「だってボクの見るところ、今晩だったら、全員とできるよきっと」


 思わず笑っちゃったよ。


「んなことあるかよ」

「あるある」


 なにを当たり前なことを――といった顔だ。


「だって吉野さんとボクは当然だし。もう一度してるもんね、一緒に」

「タマは発情してないだろ」

「発情前だって、大丈夫だよ。発情がなければ我慢できるってだけで、すること自体は可能だからね」

「そうなのか」

「うん。ケットシーに限らず、人型モンスターのエッチな行動は人間と同じだよ」


 解説を始めた。


「人間には発情とかないけど、気分が高まればエッチなことするでしょ。ケットシーはそれに加えて、我慢できなくなる発情期があるってだけ」

「トリムはどうするんだよ」

「トリム、実はエッチなこと全然知らないんだよね」


 なぜか、レナは溜息を漏らした。エロい行動を推奨するサキュバスとして、もどかしく思ってるのかもしれない。


「やっぱそうか。なんとなく俺も感じてたわ」


 パンツ触るとヘンタイ扱いされるとはいえ、平気ですぐ脱ぐしな。なんかいろいろずれてるとは思ってた。


「エルフの文化って面白いね、ご主人様。あれ、いつ誰に教えてもらうんだろ。やっぱり母親から嫁入りの前の日とかなのかな」

「かもなー」

「でもご主人様のこと好きだし、いろんなこと教えてあげればいいんだよ」

「俺がか」

「うん。教えたこと、なんでもしてくれるようになるよ絶対」

「そうかなあ……」


 想像してみた。ハイエルフが俺の前にひざまずいて、ぎこちない動作で精一杯あーんなことやこーんなことをしてくれる様を。うーん……。妄想の世界ではしてみたいけど、現実にはあり得そうもない。


「ボクがしてるの見たら、使い魔ってそんなものかと思い込んで、真似すると思うよ」

「マジか」

「マジ、マジ」


 正直、ちょっとくらっとはきたw


 でもまあ止めとくわ。なんか人生の花火、一気に燃やしすぎてるみたいだからさ。俺、実質七十五歳だし、死ぬ前の最後の輝きみたいで嫌じゃん。


 それにしても……。


 ジャグジー脇のバスケットから、なんちゃってビールを出して飲んだ。真夏の沖縄の夜にガン冷えしたビール(なんちゃって)は、とてもうまい。俺はまた星空を見上げた。


 これがあと九泊も続くとか、天国すぎる……。


 やっぱしっかり休まないとな、リーマンは。まあ俺の場合、仕事で行く異世界でも遊んでるようなもんだが。


「平、みんなで寝ようよ」


 またトリムが顔を出した。


「寝室ふたつあるけど、いつもみたいにひとつの寝台で寝ればいいよね」

「みんながそうしたいなら、反対はしないよ。トリム」


 レナがにやにやしてる。


「ほら。もしかしたら、全員裸で寝るかもよ。念のため、ボクも等身大になっておこうか。もちろん裸で。どうなるのかなー、ご主人様」

「どうもこうもあるか。パスだパス。今晩は我慢する」

「ぷっ」


 レナが噴き出した。


「やっぱ我慢してるんじゃん。……せいぜい頑張ってね。左右から吉野さんやボク、トリムがべたべたくっついてくるんだよ。裸で。ご主人様、禁欲の修行になるよこれ」

「ほっとけ。裸とは限らないだろ。吉野さんは部屋着で寝るだろうし。タマやトリムの分も、吉野さんが持ってきてるみたいだし。あと部屋にもバスローブやなんやかやが備え付けだ。裸でべったりは多分ない」

「ならご主人様が提案すればいいんだよ。みんな裸で寝ようって。誰も反対しないよ」


 そう言ったらどうなるかな。吉野さんは、恥ずかしがりながらもOKしてくれそうだ。タマは細かいこと気にしないから、さっさと脱ぐな。エッチな気分にはならないだろうが。トリムはなんちゃってビールで酔ってるから、平気ですっぽんぽんになるパターンか……。


 ……あーヤバい。レナの予言が当たりそうwww


「お前なあ……。俺を煽るなw」


 いくらエロ推奨するのが本能のサキュバスとはいえ、限度ってのがあるだろ、マジでさ。


「……とにかく俺は今日はしない。もう収まったしな」


 まあ実際そうだ。とりあえずなんとかフツー状態には戻した。ベッドでどうなるかは知らんが、多分我慢できるだろ。そもそも吉野さんは恥ずかしがり屋だし、「みんなで」とかレナみたいに馬鹿なこと考えてないのは、明らかだ。多分いつもの雑魚寝で終わる。


「ふーん……」


 レナはやっと真顔に戻った。


「……じゃあ、今夜は大丈夫そうだね。ボク、等身大になるのは止めておくよ。でもご主人様のやせ我慢、あと何日持つか楽しみにしてるよ。先行ってるねー」


 飛んで行っちゃった。


「ほっとけっての」


 もう一度星を眺めてジャグジーから上がると、俺は腰にタオルを巻いた。





●次話から新章、新展開!


甘々の休暇をたっぷり楽しんだ平は、再度異世界へ。

ついに蛮族との国境に着いた平パーティーを、正体不明のアンデッドと大河が阻む。

そして明らかになる、アンドロギュノスと天使、第二次使い魔候補の謎……。

とんでもない試練に挑む、異世界での平と吉野さんにご期待ください。

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